
「極真空手、思い出を挙げればキリがない」の第65回。この連載コラムも今回で100回目。それを記念して今回は全て無料で公開。「極真空手、思い出を挙げればキリがない」の総決算として、前回に続いて極真空手の創始者である故・大山倍達総裁との思い出を振り返ってみたい。
大山総裁の名言は数多くある。ボク自身、インタビューをして感じたことは、こちらの質問にいつも的確に答えてくれて、常に思った以上の収穫があったということ。そして、聞いているうちにグイグイと引き込まれるような言葉の力強さ、話術の上手さがあったということだ。
しかし、ボクが一番興味を持ったのは、本に載っていない、雑誌にも載っていない、映像でも残っていない、弟子たちに直接言った名言だった。そのため、有名な弟子たちにインタビューし、それぞれ心に残っている大山総裁からの言葉を集めた。
いくつか例を挙げてみよう。
「千人の生徒よりも、一人の強い弟子が欲しい」
「目の細いヤツは根性がある」
「社会的にも経済的にもあんたの方が上だ。だけど、空手の実力は俺の方が上だから、俺はあんたの子分にはならない!」
「キミねぇ、大魚は支流に泳がず、だよ」
「戦争と言うのはね、なんにも知らない方が強い。準備万端整えすぎると負ける」
「虎が山から下りれば、ウサギが王様になるんだよ」
「メシを食えなければ生命力がない。そんな人間を信用できるか」
「キミね、必殺技というのは出せなければ自分が死ぬんだよ。ガードしてどうするの」
ちなみに、こんなのもあった。
「いまに中南米の選手あたりに、逆立ちをして足を回転させ、タンバリングしながら蹴ってくるヤツが出てくるかもしれない」
さすがにそんなヤツは出てこなかったが、後にブラジルからはフィリォ、グラウベ、テイシェイラなどの怪物のような強豪選手が出てくるのだから、あながち外れているわけではないと思う。
このように、非常にボキャブラリーが豊富というか、言葉の選択が上手いというか、総裁の話は常に面白かった。合宿では総裁講話というのがあり、1時間くらい総裁が喋る。しかし、合宿は疲れるし寝不足になりがちで、中には聞きながらうつらうつらとしてしまう道場生もいた。ある時、講話の最中に居眠りしている道場生を発見した総裁は、それを叱るのではなく、「なんだか眠たい人がいるようだから、今日はこの辺にしようか」と言って、ニヤリと笑ったことがある。その居眠りしていた道場生は、自分のことだと気付き、真っ赤になっていた。総裁にはそういう茶目っ気があったのだ。
さて、そんな大山総裁が晩年に口癖のように言っていたことがふたつある。ひとつは「日本の空手界は大同団結しなければいけない」。これは、急速に力を付けてきた外国勢に対抗するため、流派の垣根を取り払って日本の空手界が一致団結しなければ勝てなくなる、というもの。
もうひとつは、空手をオリンピック種目化するというもの。「これは大山倍達、最後の大仕事です」と、生前最後になったインタビューでも語っていた。
空手のオリンピック種目化については、各団体が目指していることだ。
昨年7月、財団法人日本オリンピック委員会(JOC)副会長の福田富昭氏が会長を務め、格闘技のオリンピック種目入りを目指す日本格闘競技連盟に新極真会が加盟し、フルコンタクト空手のオリンピック種目化に大きな第一歩を踏み出した。
極真館もまた、オリンピック競技化に向け独自の方法で活動。
この流れを受け、今年1月11日には、極真会館の松井章圭館長が「空手が五輪種目になればいかなるルールであっても参加する」と発言した。
総裁は大同団結とオリンピック種目化を同列に考えていて、国内のフルコンタクト空手界がまとまれば、IOCに通しやすいと考えていたようだ。そのため、国際空手道連盟を独立させて、各流派が連盟に入り、極真会館も連盟傘下の一流派にするという構想を語っていたことがある。
現時点では、オリンピック種目化へ向けて伝統派の空手が一歩も二歩もリードしているが、大山総裁の言っていた構想が実現すれば、もしかしたらレスリングのフリースタイルとグレコローマンスタイルのように、伝統派空手とフルコンタクト空手が並び立つこともあるかもしれない。
大山総裁が作った国際空手道連盟ルール(通称、極真ルール)は、全てのフルコンタクト空手流派のルールで原点になっているはず。つかみや引っ掛けが数秒間認められるなど細かい部分での違いはあれど、元は同じ。
総裁が残したこの素晴らしいルールでオリンピック競技となり、全極真が金メダルを狙うという夢は実現しないのだろうか。空手のオリンピック種目化こそが、弟子たちに成し遂げて欲しい大山倍達最後の遺言であると思う。