「Ultimate Fight Night」
2006年8月17日(木・現地時間)米国ネヴァダ州ラスベガス
レッドロック・カジノ・リゾート&スパ
▼第7試合 ミドル級5分3R
○ディーン・リスター(アメリカ/ファビオ・サントス・シティボクシング)
判定3−0 ※三者とも30−27
●佐々木有生(日本/GRABAKA)
「ウォウッ!」。1R中盤、佐々木のミドルキックが、リスターの腹部を完璧に捉えた瞬間、ラスベガスのコアなUFCファンから、驚きの声が上がった。
スパイクTVの電波に乗り、全米でライブ中継される『アルティメット・ファイト・ナイト(UFN)』に、日本総合格闘技界ミドル級の実力者=佐々木有生が乗り込んだ一戦。
UFCは93年に活動を開始した総合格闘技の老舗でありながら、一時期、日本総合格闘技界の勢いに押されていた。だが、昨年度から開始された米国で高い人気を誇るリアリティーTV形式のプログラム『ジ・アルティメット・ファイター(TUF)』で息を吹き返し、今や名実ともに総合格闘技界のメジャーリーグの座に返り咲いている。
契約世帯数が40万とも60万件ともいわれるPPV(ペイパービュー=優良放送)大会の煽り番組、そしてTUF出身選手たちのサバイバル合戦の場という位置にあるUFNだが、20代〜30代男性のTV占有率がナンバーワンになるなど、全米で約130万世帯が目にする注目度の高い大会だ。佐々木の格闘家人生のなかでも、重要な一戦になる。
その佐々木の対戦相手リスターは、2003年のアブダビコンバット無差別級優勝者で、組技には絶対の自信を持つ。ホール・ショットを決めた佐々木だが、その後の追撃がなく、反対にリスターにバックを許し、劣勢を強いられてしまう。何とかスタンドに戻ることに成功したが、ここで反撃に転じることができず、試合のペースはリスターへ傾いていく。
米国の観客はスタンドの打撃の次に、豪快な投げに大きなリアクションを示す。そんな状況下で、再びバックを取られた佐々木、今度は大きく後方に投げ捨てられた。さらにリスターはバックマウントを奪取し、チョークを狙う。1Rはリスターのラウンドとなった。
それでも佐々木には、十分に試合のペースを引き戻す可能性が残っていた。「相手、完全にバテているよ」というセコンドの菊田早苗の指示通り、打撃戦を嫌い、強引にテイクダウンを仕掛けていたリスターは、2R開始時点ですでに肩で息をしている。
ここでもリスターは組み付こうとするが、佐々木は間合いを掴んでカット。自ら背中をキャンバスにつけガードをとるリスターに対し、佐々木はスタンドで待つと思いきや、不用意にガードのなかに飛び込んでしまった。思わぬ好機にアブダビ王者は、得意の三角絞めを仕掛けてきた。続けて左腕をアームロックで伸ばされそうになりながらも、佐々木は必死の形相で耐え抜いた。
試合がスタンドの展開へ戻ると、三角絞めでパワーを使い過ぎたリスターの動きが完全に止まっている。佐々木のフック、ボディが何度もがヒットする。一気呵成に攻めたてる佐々木だったが、ここでラウンド終了を知らせるホーンが鳴り、最大のチャンスを逸してしまった。
2Rの勢いを持続せんとばかり、スタンドの打撃戦で優位に立った佐々木だが、勝負時の中盤にまたもやバックを許し、テイクダウンの攻防で時間をロスしてしまう。逆転を賭けた打ち合いに持ち込めない佐々木に対し、リスターは終了間際にもバックを奪い後方への投げを決める。そして、試合終了。
勝負どころで詰めの一撃がなかった佐々木と、試合の流れを失いそうになるたびにタックルからテイクダウンを決めたリスター。判定は3ジャッジとも30−27でリスターを支持した。
98年4月、プロ総合デビュー戦勝利後「UFCに出たい」とコメントを残していた佐々木。その夢は実現したが、敗戦という結果よりも、関係者から「勝ちにいかないで、サバイブすることに終始していて残念だ」という意見が聞かれる――ほろ苦い全米デビュー戦になってしまった。
▼第9試合 ウェルター級5分3R
○ディエゴ・サンチェス(アメリカ/ジャクソンズ・サブミッション・ファイティング)
判定3−0
●カーロ・パリジャン(アメリカ/ゴーゴーズ)
TUFシーズン1が生んだヒーロー=ディエゴ・サンチェスが、難敵カーロ・パリジャンを本年度UFCのベストバウトに挙げられるに違いない熱戦の末、判定で下した。
パンチの攻防で両者が出血、目の周りを腫らした激しい一戦は、技術的、精神的にもUFCウェルター級のレベルの高さを知らしめるファイトとなった。試合開始早々バックを奪い、チョークとパウンドでバリジャンを攻め立てたサンチェス。だが、直後の打撃の攻防で真っ直ぐ下がる悪習が出てしまい、組み付かれて柔道流の投げで叩きつけられてしまう。
だが、ここからがサンチェスの真価が発揮される。パウンド全盛の総合格闘技にあって、彼の魅力は果敢に攻めるガードワークにある。この日も、パウンドやヒジを顔面に受けながらも、果敢にバタフライガードからスイープ、アームドラッグからバックを伺うなど、ノンストップ・グラップリングを展開。これにパリジャンが、独特のサンボ+柔道ムーブで応えたため、両者の動きが一時も止まることがない激しい攻防が随所で繰り返された。
そんな激戦で勝敗を決したのはサンチェスのスタミナだった。この夏、ひそかに行なったオランダの修行の成果、組んでからのヒザ蹴り、そして近距離からのアッパーカットは元五輪代表ボクシング・コーチ直伝。
スタンドの強化は、スタミナの強化につながったのか、最終ラウンド残り1分を切っても、テイクダウンから果敢にパスを狙い、強烈なパウンドを叩き続けることができた。気の強さでは誰もが認めるアルメニア出身のパリジャンが事実上、根負けした。
一部で「プロテクトされている」と揶揄されていたTUF時代の寵児が、パリジャンという実力者を攻め抜いての勝利。会場のファン、UFCを司るズッファ首脳がスタンディングオベーションで、本物のヒーローを称えた。
ハードロックカフェから、ステーションカジノ系列のホテル(つまりズッファのオーナーであるロレンツォ兄弟の所有物)でのUFN開催。ニューヨーク株式市場に上場するという、驚愕の噂まで飛び交うズッファUFC、その勢いを象徴するようなメインの熱戦、サンチェスの勝利であった。
写真撮影&レポート=高島学 Photos&Report=Manabu Takashima
<その他の試合結果>
○クリス・レーベン
KO 2R0分35秒
●ジョルジ・サンチアゴ
○ジョシュ・コスチェック
TKO 1R4分10秒
●ジョナサン・グーレ
○ジョー・リッグス
一本 1R2分1秒 ※三角絞め
●ジェイソン・ヴォン・フルー
○マーティン・カンプマン
一本 1R2分59秒 ※チョーク
●クラフトン・ワレス
○ジェイク・オブライエン
TKO 2R0分52秒
●クリストフ・ミドゥ
○フォレスト・ペッツ
判定3−0 ※30−26、30−27、30−23
●サム・モーガン
○アンソニー・トーレス
一本 1R2分37秒 ※チョーク
●パット・ヒーリー
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