↑得意技アキレス腱固めで優勝を決めたヒーロン。
「2006 Gracie Jiujitsu World Championship」
2006年8月19(土)〜20日(日)米国カリフォルニア州ロサンゼルス
エルカミーノ・カレッジ ノース・ジム
ホリオン・グレイシーが開く、"新食感"柔術
<RESULTS>
▼黒帯重量級
優 勝 ヒーロン・グレイシー(グレイシーアカデミー)
準優勝 マイク・ファウラー(ロイド・アーヴィン)
▼黒帯軽量級
優 勝 ハビエル・バスケス(ショータイム柔術)
準優勝 ジェフ・グローバー(パラゴン柔術&コブラカイ)
←ブラジリアン柔術でも、グレイシー柔術でもない、カリフォルニア柔術とでもいうべ き技の展開が見られたバスケスVSグローバー。
「17分経過、残り時間13分!」。
耳慣れないセコンドの試合時間を知らせる指示。
ブラジリアン柔術の始祖エリオ・グレイシーの長男ホリオン(ヒクソンが三男、ホイスは六男)が主催するインターナショナル・グレイシー柔術フェデレーションの柔術大会は、いわゆる世界に広まりつつあるブラジリアン柔術とルールが大きく異なる。
エリオの長兄カーロス、彼の息子カーロス・グレイシーJrが代表を務める国際ブラジリアン柔術連盟の世界大会=ムンジアルや、そのライバルで団体CBJJOが開くコパドムンド(ワールドカップ)は、黒帯といえども試合は最長で10分。対してホリオンの大会では、青帯でも一本勝ちか一方の選手が12ポイントを獲得しない限り、30分もの間続けられる。
試合時間以外にも、両組織の間にはポイント換算や有効な技に違いも多々見られる。例えば、ホリオンの大会ではニーインザベリーにポイントはなく、またパスガードでなくクロスマウント(サイドポジション)にポイントが与えられる。最大の違いは、トップの選手が3分間でサイドを取れない場合に、上下のポジショニングが入れ代わり、パスを許さなかった選手に1ポイントが与えられる。
さらに従来の柔術大会では禁止されているバスター=いわゆる叩きつけや、外掛けのアキレス腱固めが許されている点も大きな相違点といえるだろう。「強い選手が勝つ、それがこの大会のルールなんだ」とホリオンの次男へナーが語るように、敗者が判定に文句のつけようがない(実際に、大会を通じて裁定にクレームをつける選手は皆無であった)ルールであることは間違いない。
そんなホリオン派柔術の頂点といえる黒帯の部は、レーヴィ級を境にした軽・重量級の二階級で争われた。
←黒帯軽量級で優勝したハビエル・バスケス。日本で佐藤ルミナや宇野薫と対戦している。
軽量級には、ジョニー・ラミレツ(ニューブリード柔術)、ジェフ・グローバー、ハビエル・バスケスと来日経験のある選手を含む6選手が出場。ホリオンの長女ホージーと結婚しグレイシーファミリーの一員となったバスケスが、連続一本勝ちで決勝進出。対戦相手はレミレスを送り襟絞めで破ったグローバーだ。
ADCC2005米国予選セミファイナルで対戦した際には、バスケスがグローバーを三角絞めで下しているが、2年の歳月でグローバーが如何に成長したのかが理解できる決勝戦となった。
←敗れはしたものの、ジェフ・グローバーの体重差を克服してのファイトは再来日に十分期待できる。
一階級下のグローバーが試合開始早々から、バタフライガード、スパイラル、アームドラッグ、矢継ぎ早に攻め立て、マウントを奪取。
6−2とリードしたグローバー、その後もガードワークを駆使して、バスケスにパスを許さず8−4という有利なスコアで終盤を迎える。
一回り以上大きなバスケスとの長時間のファイトで、スタミナをロスし動きが止まり始めたグローバーは、ハーフガードからスイープを狙う。
ここでバスケスが目の前にある足をキャッチし、アキレス腱固め。直後にグローバーがタップしバスケスが優勝を決めた。10月9日に行われるGiグラップリングに出場予定のグローバー、「もうスタミナがなくなって」と悔しさを露にするが、10キロ近い体重差でハビエル・バスケスという強豪と28分38秒に渡る熱戦を繰り広げことからも、昨年以上の強さを日本で見せてくれそうだ。
←初戦はマルセーロ・ソーザから三角絞めでタップを奪ったヒーロン。
重量級の決勝は、ホリオンの長男ヒーロン・グレイシーとマイク・ファウラーの一戦に。
ファウラーは2004年末に三男ハレックを下しており、ヒーロンを喰って名実ともに米国のグレイシー・ハンターを名乗りたいところだ。
バスケスとグローバーの一戦が、カリフォルニア柔術とでもいうべき、目くるめくテクニック合戦になったのとは対照的に、この試合は極めて動きの少ない試合展開となった。
序盤にヒーロンがマウントを奪取して以降、互いにスイープを取り合う淡々とした展開が続き、スコア6−2から、ファウラーが連続してスイープを決め6−4となり、ようやく試合に熱さが増してきた。とその刹那、ヒーロンがパス狙いで足を突き出してきたファウラーの右足を捉え、アキレス腱固め一閃。
ヒーロン・グレイシーが、その名に恥じない最低限の勝利を挙げ、黒帯重量級の部を制した。MMA進出も視野に入れる新世代グレイシーの旗頭ヒーロン、「準備はできている」と金メダルを首に下げ、意気揚々と会場を跡にした。
ビル・クーパー、グレイシー越えと価値ある準優勝
↑ハレック・グレイシーを圧倒、12−3で勝利したビル・クーパー。
日本でも一部のファンに、その実力が大いに認められるスーパー・ティーンエイジャー=ビル・クーパー(パラゴン柔術)が、本来の階級(=レーヴィ級)とは二階級から四階級も差があるメイオペサード〜スーペルペサード級にエントリーした。
緒戦の相手はハレック・グレイシー、二回りは小さなクーパーだが、徹底したテイクダウン狙いとパスで序盤からハレックを圧倒。勝利まで1ポイントとしたところで腕十字は逃げられたが、最後まで一本勝ちを狙うクーパーの真骨頂といえる試合展開で、最終的には12ポイントを奪取。グレイシー越えを果たした。
←対戦相手の道衣を噛んで、手元に手繰り寄せようとする。勝負根性も凄い。
準決勝でも体格で勝る相手からしっかり勝利を掴んだクーパー、決勝の相手は米国茶帯トップのクリス・モリアティだ。ここでも二階級は差があるモリアティに対して、アームドラッグを仕掛けるが、パワーの差は歴然で潰されスイープで先行を許す。さらにバックを奪われそうになるなど、クーパーは苦戦を強いられるもののアグレッシブなスタイルを貫く。
最後は足への注意が散漫になり、ヒザ固めを極められて一本負けし準優勝に。「なんで、重いクラスにエントリーされたか分からないんだ。日本ではレーヴィ級かメジオ級ウエイトで戦いたい」と笑顔で語るクーパー。兄弟子ジェフ・グローバーとともに噂される再来日に、胸を躍らせていた。ムンジアルでは茶帯レーヴィ級でベスト8、今大会は準優勝。再来日が実現すれば、十分に活躍が期待できる結果&内容を残している。
慧舟會、礒野元。5試合、5一本勝ちで青帯レーヴィ級で優勝
↑先日のデラヒーバカップで青帯に昇格したばかりの礒野。隠れた実力者が、表に出てきた。
今年に入って、本格的に柔術大会に出場するようになった和術慧舟會。その慧舟會の知る人ぞ知る実力派グラップラー礒野元(HERO'Sルール・ディレクターでもある)が、青帯メジオ級に出場した。礒野は26日のUFCに出場する岡見勇信のセコンドとして、岡見に先立って米国入りし、UFNを視察。当大会の開催を直前になって知り、出場を決めた。
極めを徹底的に磨いてきた礒野、「このルールは自分にはやりやすいです。時間とか気にする必要もないんで」。3回戦まで1ポイントも計上することなく、腕十字、アームロック、変形片羽絞めで勝ち上がった礒野、準決勝のフェン(ユナイテッド柔術)戦で初めてスイープ+マウントで、ポイントを先行される。しかし、テッポウでトップを取ることに成功した礒野は、パスから同時に絞めを極め決勝進出。
決勝戦の相手はニューブリード柔術のパラ、体格的には一回りは大きな相手だ。予想通りパワーに勝るパラは、いきなり礒野をテイクダウン、さらにギロチンをかけながらのテイクダウン+パスなどで、あっという間に11ポイントを奪取。試合開始、間もないところで礒野は1−11と絶体絶命のピンチに追い込まれた。
この窮地に、礒野は得意の二重がらみでパスを許さず、反対にポジションチェンジの1ポイント、さらにクロスマウントとポイントを重ね、11−6までポイントを挽回する。勢いに乗る礒野とは対照的に、あと1ポイントから勝負を決められなかったパラは、スタミナを消耗し、精神的に追い込まれていった。
←御大ホリオン・グレイシー様から、メダルを授与される。「このルールで大会を開きたい日本人は、私に連絡を」(ホリオン)。日本でも見てみたいルールであることは間違いない。
肩で息をし、呼吸が荒くなったパラに対し、礒野はここで腕十字を仕掛ける。「耐えようと思えば耐えられたはず」(礒野)という十字も、気持ちが途切れそうになっていたパラには威力が十分。ここでバラがタップし、5試合連続の一本勝ちで、礒野が表彰台の頂点を勝ち取った。
礒野の優勝に対しホリオンは「青帯で出るのは、もうフェアじゃない。日本に帰って紫帯を巻きなさい」と進言。日本で行われている柔術とはルールが違うといえども、技術+メンタリティーに違いはない。目標はムンジアル、ブラジル人越えという礒野、今後、日本ブラジリアン柔術界の台風の目になるかもしれない。
写真撮影&レポート=高島学 Photos&Report=Manabu
Takashima
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