ZUFFA
「Ultimate Fighting Championship 63」
2006年9月23日(土・現地時間))米国カリフォルニア州アナハイム
アロウヘッド・ポンド・オブ・アナハイム
▼メインイベント UFC世界ウェルター級選手権試合5分5R
○マット・ヒューズ
TKO 3R3分53秒
●BJ・ペン
会場の照明が落ち、1万5千以上の観客の興奮度が最高潮に達した場内。BJ・ペンの入場曲が流れると、そのイントロの重低音とあいまって、地鳴りの如きゴウゴウという音が会場の底から沸き上がった。最強王者ヒューズが、二年半前の敗戦のリベンジを賭けて天才児ペンに挑んだこの一戦は、期待に違わぬ世界最高レヴェルの攻防に――、今のUFCの勢いを象徴するメインイベントとなった。
1R、タックルを狙ったヒューズに対し、一回り小柄なペンが驚異的な腰の重さとバランスでこれに対抗。得意のヒューズスラムどころかテイクダウンすら取らせない。ヒューズは何度も仕切り直しをしてはタックルに入るが、ペンはことごとく防御。ヒューズ陣営に早くも焦りの色が伺える。
「片足を取られつつがぶり」という、極度にヒザが柔らかくない限り大怪我することもありえる技を平然と披露するペンは、やはり天才の異名をとるに相応しいファイターだ。そのペン、スタンドでも的確な左を何発もヒットさせ、ヒューズの顔に傷をつけて有利にラウンドを終える。「試合に向けての特別な練習はもうやめた」と言い放ったペン、恐るべきナチュラルタレントを改めて見せつけるスタートとなった。
UFC史上最高峰のグラウンドの攻防が見られたといっていい2R。テイクダウンに成功したヒューズはパスを狙うが、ペンは金網際に押し込まれつつも巧みにガードに戻し、再び柔軟なヒザを利用したハイガードでヒューズを固定、下から打撃を入れていく。だが強靭な体力で背筋を伸ばしたヒューズは、負けじと金網にペンを追い込んでヒジを落とす。
とその刹那、ペンはヒューズがヒジを打ち下ろすタイミングを見切って、ダックアンダーの形でかいくぐるという離れ業を披露。そのまま、するするとヒューズのバックに! 必死でペンを前に落とそうとするヒューズだが、ペンは張り付いたまま離れない。前三角の体勢で足をロックし、ヒューズの腕を伸ばして極めにかかるペン。ヒューズが凌いで腕を抜いたところで、ラウンドが終了した。
3R、ペンは2R終盤の攻防で力を使い果たしたせいか、スタミナ切れが暗に顔に出てしまっている。ならばと、ヒューズはパンチで攻勢をかける。やはり、反応の鈍っているペンに、ヒューズの拳が面白いようにヒットする。たまらず組み付きに来たペンをがぶったヒューズは、セコンドの「立て!」という声を無視して一気に上を取り、低く低く圧力をかけながら、ついに完全に胸を合わせ、ハーフガードから抑え込む。
必死に抵抗するペンだが、ヒューズはヒジを落としつつ、膝を抜いてサイドを奪取。さらにスネでペンの片腕を押さえつけ、反対の腕を肩で押さえつけて無防備状態にする。いわゆるヒューズスペシャルの形から、パウンドの雨あられ。完全にガスアウト状態になったペンだが、それでも執念でもがき続ける。ヒューズはがら空きのペンの顔にパウンド。どれだけ殴られても決してあきらめないペンだったが、つにレフェリーが試合をストップ。スタミナと試合運びでまさったヒューズが大逆転勝ちを収めた。
試合後のインタビューでヒューズは「5R闘う用意ができていたんだけど、BJはそうでなかったようで残念だ」と余裕のコメント。本来この日ヒューズに挑戦するはずだったジョルジ・サンピエールがオクタゴンに上がり、「おめでとう。でも今日の君のパフォーマンスはそんなに凄いと思わなかったよ。闘える日を楽しみにしている」と、いつもの丁寧な彼の口調からはやや違和感があるアピールをするも、「じゃあやろう」と意に介していない模様で聞き流していた。
その後、会見時には「奴(サンピエール)は焦っていたんじゃないかな。ペンに勝った勢いのまま今日俺に挑戦できればよかったのに、理由は知らないが欠場したことで、勢いを失ってしまった。奴が仕留めることのできなかったペンを俺はこうして仕留めたんだしね」と、自信と余裕を伺わせるコメントを残した。
改めて世界最強を示したヒューズ。サンピエール戦が、11月18日に行われることが発表されたが、その一番の勝者は、現在進行中のTUF4のウェルター級優勝者の挑戦を受けることとなる。さらにその先には連勝を続けるディエゴ・サンチェスが控えている。タイトル最前線以降にも、ジョシュ・コスチェック、カロ・パリシャン、ニック・ディアズ、ジョー・リグスら強豪が揃っており、当然10月14日にジョン・フィッチと闘うことが決定した弘中邦佳も、勝ち続けるとタイトル戦線に絡んで来るだろう。
超充実、世界最高峰の戦いが続くUFCウェルター級戦線は今後も大注目だ。
▼第5試合 ライト級5分3R
○ジョー・ローゾン
TKO 1R0分48秒
●ジェンズ・パルヴァー
4年半ぶりにUFC復帰を果たしたライト級初代王者、パルヴァーは大人のリラックスムードを漂わせて入場。対するは初参戦、サブミッションが得意という前評判の22才の新鋭ジョー・ローゾン。童顔だが、目を見開き頭の血管が今にも破裂しそうな形相で戦闘態勢に入っている。
試合開始後、すぐにローゾンが片足タックルでパルヴァーをテイクダウン。得意の「手付き尻立ち」で対処しようとするパルヴァーをねじ伏せ、パウンドを落としていく。が、パルヴァーもここは冷静に対処し立ち上がる。攻撃の手を休めないローゾンは、スタンドでパルヴァーの頭を押さえつけてヒザ一閃。続けて左フックをクリーンヒット。パルヴァーは昏倒し、秒殺決着による大番狂わせとなった。
暴風雨のような試合ぶりで会場を騒然とさせたローゾンは、試合後も興奮覚めやらぬ様子。対するパルヴァーは苦笑しながら「やられちゃったよ」と勝者を称えた。かつてパルヴァーの売りだった激しさを初参戦の若者が見せつけることとなり、月日の流れを感じさせる一戦となった。
大会終了後の会見では、またもやPRIDEのラスベガス大会に関して質問がとんだが、この日は冷静にジョークを交えながら対応したダナ・ホワイト社長。
「競争団体が増えることはいいことだ。多くの選手が経験を積むためにも」と、前回の大会の怒りの会見の再現とはならなかった。なお、そのホワイト社長は会場に姿を見せたクイントン・ランペイジ・ジャクソンに話が及ぶと、冗談ぽく笑い「I'll
get him. He'll be mine.」と自信ありげにコメント。
さらに「ヴァンダレイもミルコも、世界中のいいファイターはみんな欲しい」と冗談めかして返答したが、ヴァンダレイ・シウバに関しては、「本当に私は彼の試合を組みたいんだ。今でもそう思っている。ただ彼はこの間KOされたから、米国では90日間試合は出来ない。不可能だ。でもその期間が過ぎたら彼の試合を是非組みたい」とコメントを残している。
いつまでも夢見るMMAファンである一方で、リアリストでもあるホワイト社長は、メキシコでTUFを放送し、知名度が高まっているので、今後はスパニッシュ系のファンの獲得を本格的にアプローチすると宣言。先に発表された12月30日大会、そして11月18日にヒューズVSサンピエールの世界ウェルター級戦、シルヴィアVSモンソンの世界ヘビー級戦と二大タイトル戦を行うことも発表している。
▼第1試合ライト級5分3R
○タイソン・グリフィン
一本 1R1分50秒 ※チョークスリーパー
●デイヴィッド・リー
ユライヤ・フェイバー、ドゥエイン・ラドウィッグらから勝利を奪っている大注目の無敗戦士、グリフィンが待望のUFC登場。開始早々にリーが繰り出した飛びヒザの着地際に組み付いてバックを奪いグラウンドに持ち込むと、そのまま四の字フックで固めチョークで圧勝した。
▼第2試合ライト級5分3R
○ジョルジ・グージェウ
3R判定2-1
●ダニー・アバディ
終始前進し、寝技の仕掛け続けたTUFシーズン2の人気者グージェウ(赤タイツ)が、下がりながらのカウンター狙いに徹したTUF3出身のアバディに手こずり、ずるずると判定勝利。会場ではブーイングも聞かれた。
▼第3試合ヘビー級5分2R
○エディ・サンチェス
KO 2R0分17秒
●マリオ・ネト
初回は柔術黒帯ネトがグラウンドで上になる場面も見られたが、2R開始早々、代打出場サンチェスの右のヘイメイカー(バックスイングしてのパンチ)がスマッシュヒット。パウンドにつなげ豪快なKO勝利を収めた。
▼第4試合ライト級5分3R
○ロジャー・フエルタ
3R判定3-0
●ジェイソン・デント
お互い真っ向から打ち合った好試合は、体力に勝り日本の小谷直之にも勝利しているフエルタ(青トランクス)が上を取り、豪快なパウンドで攻め込み勝利。対するデントもまったくひるまず終始反撃を試み、見事なヒップスロー・スイープを決めるなど見せ場を作っていた。
▼第6試合ライトヘビー級5分3R
○ラシャド・エヴァンズ
TKO 2R2分22秒
●ジェイソン・ランバート
TUFシーズン2の全4試合を判定勝利で優勝、さらにUFNでも判定勝利を重ねて本戦に勝ち上がってきたレスラー=エヴァンズ。この日はマウント奪取後、背筋を伸ばした完璧な体勢から強烈なパウンドを連打し、8連勝中のランバートから完全失神KO勝利。進化を見せつけた。
▼第7試合ライト級5分3R
○メルヴィン・ギラード
TKO 2R1分1秒
●ゲイブ・ルーディガー
荒削りさは目立つものの、驚異的な破壊力の打撃で人気のTUF2出身のギラードが、UFC初参戦となる元WEC王者、実力者としてその名が米国MMA界に知れ渡っているルーディガーを迎え撃った。
必死の形相でグラウンドに持ち込もうと組み付いてゆくルーディガーを、ギラードは逆に豪快に投げ飛ばして、パウンドを入れては、スタンドでの勝負を挑む。打撃戦では明らかに劣勢だったルーディガーだが、1R終盤にタックルを決め、すぐにパス、マウント、バックと展開して千載一隅のチャンスを作る。が、チョークを極めきれぬうちに惜しくもタイム。
2Rに入ると、スタンドでルーディガーを攻めたてるギラードは、綺麗な右ボディを腹にめりこませる。さらにもう一発。これが鳩尾にクリーンヒットし、ローディガーは悶絶。UFC史上初のボディパンチでのKO勝ちを収めた。寝技でのモロさと圧倒的な身体能力を併せ持つギラード、今後も目が離せない存在だ。
▼第8試合ミドル級5分3R
○マイク・スウィック
3R判定3-0
●デイビッド・ロワゾー
驚異的な秒殺快進撃を続けるTUF1の脇役スウィック、1、2Rは上を奪ってやや優位に試合を進めた。最終ラウンド、後がないロワゾーはついに必殺の刃物の如きエルボーを振り回して前進、さらにテイクダウンを奪い上からエルボーを連打するも、スウィックが凌いで立ち上がる。結局、三者共に29-28という僅差でスウィックが勝利、実質上トップコンテンダーとしての実力査定試合をクリアした形となった。
レポート&写真/堀内勇
Report&Photos/Isamu Horiuchi
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