▲小寺麻美が八木沼志保(アンプラグド国分寺)にしかけた三角絞め、2度もスラムをくらいならが腕十字に移行し一本勝ちを奪う
ADCC
JAPAN
「Gi ADCC オープン・トーナメント初日」
2006年10月8日(日)東京・文京スポーツセンター柔道場
「本当に緊張して、何とか無事に終わりホッとしました」
9月に発足したばかりのADCC JAPANが開催した初の公式トーナメント『Gi ADCCオープン』の初日を終え、ADCC JAPAN代表・浜島邦明氏が漏らした言葉が、ADCCという名前を背負って大会を開く責任の重さ、重要性を端的に表していた。
団体、競技間の壁を越えて結成されたADCC JAPAN。その綱とりを行う浜島氏にとって、“世界のアブダビ”からレフェリーを招いての講習会、オフィシャル・レフェリーの誕生、そして初めてのトーナメント開催(と不慮の事故による足の骨折)。目まぐるしさのなかで我を忘れそうになる中、いつ何時も頭の中を離れなかったのが、難解なADCCルールを用いた初めての大会で、滞りなくトーナメントを運営できるかどうかということだった。
レフェリー、ポイント計算を行うジャッジ陣――、誰もが基盤の格闘技経験を持つが故の悩みは尽きなかった。
技術的指針は、ブラジリアン柔術の技術に求めながらも、ポイントで柔術と異なる解釈を取るADCCルールは、実のところ「柔術だったら、○○○なのに」、「レスリングだったら○○○となる」という台詞が、つい口をついて出てくる脆弱なポイント・システムの上に成り立っている。組み技世界最高峰の闘いと自他ともに認められているADCCだが、実際のところ2年に一度の世界大会、および世界大会に関連した予選大会が開かれているにすぎなく、競技としての普及は始まったばかりだ。そのための協会化、そのためにトーナメントの定期的開催が望まれてきたわけだが、真剣に理想を追求するからこそ、その実現には困難がつきものということを、浜島氏を初めとする運営陣は身をもって理解することとなった。
このため彼らは、大会2日前に浜島氏が指導を行うアカデミアAz高島平に集合させ、道場生のスパーを模擬ADCC戦とし、レフェリング、ジャッジングの確認=大会の予行演習を行ったほど。それでも、なお不安は大会が始まってもつきまとっていた。
結果、アダルト・アドバンスド(上級者)の準決勝まで、インターミディエイトとビギナーは決勝戦まで60試合近くの試合が行われたが、大きな混乱もなく大会初日は無事終了した。
この混乱が少なかった要因の一つは、参加者もまだ手探り状態、ルールへの理解度は低く、ルールに沿った戦略を立てる選手はほとんど存在せず、誰もが普段の練習の成果を試す場として、大会に挑んできたからといえるであろう。
そんななか、自らレフェリー講習会へ参加し、ルール、ポイントシステムを誰よりも理解し、技術に加え戦術をもってトーナメント戦を勝ち抜いたのが、アドバンスド61kg以下級に出場した北出拓也(パレストラ千葉)だった。柔術茶帯、昨年のGiアマチュア・グラップリングのガロ級で優勝する実力者の北出は、初戦は柔術家らしく三角絞めで一本勝ちを飾ると、準決勝は対戦相手のマイナス・ポイントで得たポイントをしっかり守りきり、決勝戦=猪俣晃晴(コブラ会)戦進出を決めた。
▲ルールを最も把握していた北出。66sの日本代表になる可能性もあるが、ADCCにはもう一階級軽い階級を制定してもらいたいところだ
アドバンス−66kg級ではプロシューター中村浩士(東京イエローマンズ)が、決勝でコブラ会の犬伏出と闘うこととなった。中村は元プロシューターでDEEPのリングに上がったこともある亀田雅史(コブラ会)を初戦で下すと、準決勝では優勝候補の吾妻エメウソン(秋本道場)と対戦。ニーインザベリーとパスガードで5Pを奪い、吾妻のヒールホールドを逃げ切って決勝進出。ヒールホールドの切れが抜群の犬伏とのファイナルは、激しい一戦になりそうだ。
▲中村は吾妻エメルソンの足関節をかいくぐり、決勝進出
−71kg級では、アマ組み技界で際立った存在感を見せる高橋良治(タイガープレイス)が予想通り決勝進出を決めている。緒戦で谷泰雄(S-KEEP)をアナコンダチョークで下すと、準決勝では同じ慧舟會門下の大田洋平(A-3)と対戦。修斗グラップル王者=高橋とパンクラス・プロアマ・キャッチレスリング王者=大田、興味深い顔合わせは、ポイントのつかない前半戦に大田が高橋からバックを奪いそうになるなど、白熱の展開に。この危機を脱した高橋は一気にスパート、投げで豪快なテイクダウンを奪うと、ポジショニングの攻防を諦め一本狙いに徹した大田からパスガード、ニーインザベリーなどを次々に決め、10−0で大勝。決勝で若林拓磨(MAX柔術アカデミー)と対戦することが決まった。
▲71kg以下級で決勝へ進出した高橋。同門・大田との試合は初日のベストバウト。71sという体重がネックだが、本予選でも活躍間違いないだろう
重量級の出場選手が少なかったため、準決勝まで行われた9人参加の無差別級。160kgの巨漢柔道家=上口孝太(非公開)が、抑え込みからの腕絡みという必殺コースで圧倒的な強さを見せつけ決勝進出、小沢幸康(チームKAZE)と対戦する。
▲その存在自体が、反則的だった上口。抑え込みですら、極め技になりそうだ
この他のアダルト決勝は、77kg以下級は山崎昭博(サブミット静岡)×水野健次(ポゴナクラブ)、88kg以下級は近藤哲也(ピュアブレッド大阪)×甲斐俊光(ツイスト)、94kg以下級は小沢幸康(チームKAZE)×入来晃久(JKJC)、99kg以下級は岡晃一郎(コブラ会イースト大阪)×渡邊直人(タイガープレイス)、女子50kg以下級では茂木康子(ストライプル)×小寺麻美(REDIPS)が、場所をディファ有明に変え、明日9日に行われる。
なお、参加者10人を数えたアダルト・インターミディエイト66kg以下級で優勝した北原暢彦(アクシス柔術アカデミー)は、次回ADCC JAPAN公式大会よりアドバンスでの出場が認められることとなった。
▲今大会のインターミディエイト優勝者のなかから、唯一次回大会での昇級が認められた北原。ADCC JAPAN日本予選前に北海道、首都圏、関西、四国、九州と全国でオープントーナメントを今後、行なっていく予定
全試合終了後、人気のなくなった柔道場に残り、反省会を開いたADCC JAPAN審判員。明日の決勝はもとより、今後、全国展開されるADCC大会、さらには3月から行われるADCC日本予選へ一歩ずつ大会の完成度を高めていくだろう。
レポート&写真=高島学 Report&Photos=MANABU TAKASHIMA
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