↑大きく腫れ上がった弘中の顔。試合後、病院の検査では脳波、眼窩底、ともに異常はなかったので一安心だ。
ZUFFA
「Ultimate Fighting Championship 64 Unstoppable」
2006年10月14日(土・現地時間)米国ネヴァダ州ラスベガス
マンダレイベイ・イベンツセンター
▼第6試合ウェルター級5分3R
○ジョン・フィッチ(米国/AKA)
判定3−0 ※30−27、30−27、30−25
●弘中邦佳(日本/アカデミアAz)
「強かった……」弘中邦佳はオクタゴンを下り思わず呟いた。絶対の自信をもって乗り込んだUFCの結果は、これまで経験したことのない数多くの打撃を寝技で受け続けた判定負けだった。
対戦相手のジョン・フィッチは「知名度こそ高くないが強い」という評価のファイターだったが、強豪といってもレベルの差はある。そして、フィッチはとんでもない強豪だった。
レスリング出身、サンノゼの名門ジム=アメリカン・キックボクシング・アカデミーで柔術やキックも学んでいるフィッチ。スタンドのプレッシャーは打撃とテイクダウンが相まって強烈そのもの、寝技でも柔術的な仕掛けをすることは少ないが、凌ぐ技術を十分に有している――、そんな穴のないファイターだった。
試合はまずフィッチがテイクダウンを奪い、トップを奪う。ここで弘中は三角絞めの態勢へ。
→最初の三角絞めで力を使い過ぎたという声もあるが、極まっていれば秒殺だったこともあり、致し方ない。
得意中の勝ちパターンに早々に持ち込んだ弘中、日本から訪れた彼の応援団の誰もが、頭のなかに「UFCデビュー戦で衝撃の秒殺デビュー」という文字を並べたことだろう。しかし、すぐにでもタップすると思われたフィッチだが、そんな兆候は全く見せない。
そればかりか、弘中が何度も何度も足を組みなおしている。得意だったはずの形が徐々に崩れていく。なんとか左腕と首を中央に引き寄せ万全の形に持って生きたいところだが、フィッチはヒジを外側に突っぱね、胸を張ってこの窮地を脱した。結局、弘中はケージに追い込まれパウンドとヒジを顔面に受けて1Rが終了した。
2R、フィッチと向かい合った弘中の左目上部が大きく腫れ上がっている。三角を凌がれ、経験したことのない強烈なヒジ打ちを食らって心身ともにダメージが残っているのか、それともフィッチのやや遠い間合いに戸惑ってしまったのか、弘中はフィッチのハイキックでガードごと吹き飛ばされそうになる。
→UFCを目指す日本人選手にとって、ヒジ打ち対策は必要不可欠となるだろう。
間髪いれず、テイクダウンを仕掛けてくるフィッチに、弘中はなす術なくキャンバスに倒される。一度はスイープを仕掛け、体を浮かせることに成功したものの、直後に足を取られて再びガードポジションを強いられると、そこからは一方的にヒジとパンチを落とされていく。
3Rに入っても、弘中がガードを強いられる展開が続く。そして弘中はハーフガードから潜り、スイープを狙う。が、頭をフィッチの体に近づけると、そこは彼のヒジの制空権。弘中は態勢を返るどころか、上からヒジ打ちを顔面に連打されてしまった。
→最後まで勝負は諦めなかった弘中が、最後の打ち合いに挑んだが……。
信じて疑わない柔術の技術を押し切られ、必死にクローズドガードで身を守る。そして膠着状態となり、残
り時間1分15秒でブレイク。スタンドでの再開=最後のチャンスが訪れた。
が、ここで打撃をヒットさせたのも、リーチで上回るフィッチだった。
ジャッジの一人が30−25(残りの二人は30−27)をつける大差で、弘中は敗れてしまった。
最後まで決して諦めない弘中の姿勢に対し、「凄い根性を見せてくれた」というUFC関係者のコメントも聞かれたが、有効な攻めに転じることが出来なかったことも事実。これがオクタゴンのレベルなのか、世界最強を争う場だからなのか、それともフィッチが強すぎただけなのか。その事実が判明するのは、弘中が再びUFCのオクタゴンに上がったときだ。
試合前、「世界チャンピオンを目指すのだから、楽な闘いはない」と言い切っていた弘中。今回、賽の目は悪いほうに出てしまったが、まだ巻き返しは可能。弘中にはこの日の敗北を糧に、不足している部分をまかない再挑戦してほしいものだ。
写真撮影&レポート=高島学
Photos&Report=Manabu Takashima
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