↑三角絞め狙いのジャカレ
「Professional Submission League X-Mission」
2006年11月17日(金・現地時間)米国カリフォルニア州カルバーシティ・ベテランズ・メモリアル
▼メインイベント 無差別級4分×2R
△ランディ・クートゥアー
再延長0−0
△ホナウド・ジャカレ・ソーザ
鉄人ランディ・クートゥアーと、ホナウド・ジャカレの夢のグラップリングの一戦は、両者痛み分けに終った。
→足関を多用したジャカレ、クートゥアーはしっかり防御に徹していた
想像通りスタンドの圧力が凄いクートゥアーに対し、ジャカレはまずアームドラックを仕掛けバックを伺う。元は米国を代表するグレコローマン・レスラーのクートゥアー、さすがにスタンドの組み合いでひけをとることはない。すぐにアームドラッグを察し、さらに前へ前へと進む。
ここで引き込んだジャカレは、腕十字をしかける。
当大会は、テイクダウンやマウントが1Pなのに対し、関節技のキャッチが3Pというルールを採用しており、この十字でジャカレがポイントを先制するかと思われたが、クートゥアーが腕を引き抜いたため、メインのみを裁いた特別レフェリーのビッグ・ジョン・マッカーシーはポイントをカウントしなかった。その後も、下から仕掛けるジャカレに対し、クートゥアーはパワーとバランスの良さで得点を許さない。
→「楽しむため」と言っていたクートゥアーだが、当然、必死の形相で勝利を目指した
三角絞めを凌がれたジャカレは、ヒザ十字→アンクルとPSLの大会では、最も得点の入りやすいパターンに移行するが、これもクートゥアーはしっかり足をクロスに彼の右足が伸び切ることはない。関節技の仕掛けにポイントが入らなかったジャカレはやや不満そうな表情で、自陣へ戻る。
2R、前のラウンドで足関節をフルパワーで仕掛けたジャカレは、スタミナをロスしたのか、動きが静かに。それでも、引き込んでグラウンドになってしまえば、クートゥアーにポイントを与える隙は見せずに、しっかりガードワークに徹しきる。終盤、またも足関節に固執するジャカレの攻撃をかわし、クートゥアーがバックをとったところで、このラウンドが終了。試合は延長へ。
テイクダウンを奪いなさいといわんばかり1分間の延長戦は、ジャカレが引き込んでしまうと、いたずらに時間が過ぎていくのみ。この展開は再延長でも変わらず、試合は0−0の痛み分けに終わった。
→試合後、健闘を称えあう両者。ジャカレは「彼は今も王者の中の王者」とクートゥアーを評した
MMAは引退したクートゥアーが、若いジャカレ(体重では25kgほど軽いはず)の攻撃を凌ぎきったことに多くの歓声があがり、クートゥアーを攻め続けた印象を残したジャカレも、また賛辞の声に包まれて、マットを下りた。
興行的には、万々歳の結果――だが、両者の試合が噛み合っていなかったことは、最後の最後の少しブーイングが起こったことで明らかといえるだろう。それでも、2人のカリスマ性溢れるファイターは、ほとんどのファンを十分に納得させ、メインの役割は果たしたといえるだろう。
↑初めて、道衣を着ない試合に挑み、勝利したクロン・グレイシー
▼第4試合175パウンド
○クロン・グレイシー
4−0
●アンディ・ウォン
ヒクソン・グレイシーの次男クロン・グレイシーが初めて挑んだノーギの試合。対戦相手のアンディ・ウォンは、もとはマチャド柔術の所属で、その後ハワイのイーゲン・イノウエ、バレット・ヨシダの下で学び、LAに戻ってきてからはR-1やレジェンドジムで練習を積んでいる黒帯ファイター。
→まずは片足タックルでテイクダウンを奪う
クロンは、そのウォンからテイクダウンを奪うと、その後もいわゆる柔術流のアキレス腱固めで3Pを加算。派手さはないが、着実にポイントを重ねて、2Rへ。
黒帯の意地で、逆転を狙うウォンだが、ガードを取ったクロンを攻めあぐねる。どんなルールであろうが、攻めさせない=生き残る技術を見せ付けたクロン、しっかり一族の血を受け継いでいる証だ。
反対に小手絞めから上を奪い返すなど、終始、試合を自分のリズムで闘ったクロンが、ウォンが最後の力を振り絞って仕掛けたヒールも難なく防御し、そのまま勝利を手にした。
→いわゆる、グレイシーに伝わる柔術流のアキレス腱固め
「初めてのノーギだったけど、別に緊張はしなかった。普段、やっている柔術ポイント換算が違うから、自分のスタイルをアジャストしたけど問題はなかったよ。次の目標? 毎日、練習して強くなることだよ」と言うクロン。父ヒクソンは「よく闘った。あの年齢らしい、試合運びで掴んだ勝利だったと思う。年相応の小さなミスはたくさんあった。まだまだ学ばないといけことは多い、だからアカデミーでまた練習をするんだ」と、大喜びする周囲と比べても実に冷静な視線を息子に送っていた。
決して衝撃的な勝利ではないが、これだけ注目を浴びるなかで、ごく普通に闘い、自分より大きく、キャリアのある相手から勝ち星を挙げる。クロンが非凡な才能の持ち主であることは間違いないだろう。
↑えげつない角度で極まっているギロチン
▼セミファイナル
○マルセーロ・ガウッシア
1R ギロチン・チョーク
●ジェイク・シールズ
キャッチに3Rというポイント・システムの採用により、多くの選手が足関節を狙う――、そんな試合が前回のPSLでも目立っていたが、今大会はさらに際立っていた。
テイクダウン+パス、そしてサブミッションという流れが必要な絞めや腕を狙う選手は少なく、言い方は悪いが安易に足関節を狙う展開が多い。ポイントを意識しすぎ、本来、磨いてきた技術でなく、あくまでもPSL仕様の試合という風に見えた選手も多かった。
そんななか、前回同様、いつも通りに闘い、ジェイク・シールズという強豪から一本を奪ったのが、神童マルセーロ・ガウッシアだ。前回のADCC世界大会優勝者と3位の一戦は、両者が同じ土俵で闘う今大会のベストバウトだった。
→シールズもしっかりガウッシアの領域で闘い、スイープを阻止
引き込んでスイープを狙うガウッシアだが、シールズは自ら頭をつけ、ワキをさしてトップをキープ。ならばと、下から体を蹴り上げ隙間を作ろうとするが、これもシールズは察知し立ち上がる。すかさず右足に絡みつきリバーサルを狙ったガウッシア。シールズが腰を落とし気味になり、バランスをキープした瞬間、素早く立ち上がると、片足タックル。しっかりでテイクダウンを奪った。
パス狙いのガウッシアは、シールズがそれを許すまいと、しっかり足をクロスし体を斜めにして、エビの要領で逃げようとしたところを、待っていましたとばかりに首に絡みつき、ギロチンの態勢へ。そのまま両足でシールズの体を挟み込むと、一気に首を絞り上げタップを奪った。
一見ネックロックのようにも見えたが、シールズは「喉仏が潰れるかと思った。あんなギロチン、経験したことがなくて、タップしてしまったよ」と試合後に語っている。
→次回PSL大会、そして来年のADCC世界大会と彼の快進撃を止めるべく選手は現われるのであろうか?
足関節に捉われることなく、いつものようにポジションを奪いながら、最後に一本勝ちしたガウッシアは、「僕も最初、この大会のルールを見たとき、悩んだんだ。どうしよう、この得点配分は?って。 でもね、僕は十何年も柔術をやってきた。なら、柔術をすればいいだと思うようになったんだよ。そうしたら、前も今回もしっかり一本勝ちできた。みんな、ポイントを考えすぎて、本来の動きを少し忘れてしまっているんだよ」とコメントを残している。
何のためのサブミッションか。相手を仕留めるためなのか、ビッグ・ポイントを奪うためなのか。
豪華なメンバーが顔を揃えるPSLの大会だが、前回に引き続き、今大会もこの関節技に3ポイントというルールが、奥歯に何かが挟まったかのような違和感を残したまま、幕を閉じた。次回大会は、2月に予定されているが、その時はどんな闘い模様が見られるのであろうか。
▼第6試合 ヘビー級
○ウラジミール・マティシェンコ
1−0
●ヴィニシウス・マガリャエス
ともに自分の領域でしか闘わない両者に、この日一番のブーイングが飛んだ試合。2Rにテイクダウンを奪ったマティシェンコが、1−0でマガリャエスを下した。引き込んでも一切グラウンドに来ない、テイクダウンを許す覚悟で組み合ったとしても、その後、立ち上がられると寝技勝負にいけないので、マガリャエスには厳しい試合であった。寝技に一切付き合わず、引き込んだ相手にタックルをしかけ上をキープしたマティシェンコ、ルール上問題はない攻撃なので、文句はいえないが、観客はこういうファイトは求めていないだろう。
▼155パウンド
○アルバート・クレーン
2R1分51秒(アンオフィシャル)腕十字
●ジョー・カマチョ
ハビエル・バスケス×ハニ・ヤヒーラという注目の両者が欠場し、実現したカード。まずは足関節を狙うなど、カマチョが積極的に動く。クレーンはその後マウントを奪い、さらにスピニング・チョークで3P加点。完全にペースを掴んだクレーンは、2Rに入るとマウントから腕十字を極め一本勝ちを収めた。勢いづき杉江アマゾン大輔と戦う、名古屋に乗り込む。
▼200パウンド
○ラファエル・ロバトJr
7−0
●ホベウト・カマルゴ
引き込んで足関狙いに終始するグレイシー・バッハのカマルゴから、テイクダウンを奪ったロバトJr。ガードをとるカマルゴに対し、パスのフェイントから飛びついてギロチンを仕掛け、3奪取。そのまま極まってもおかしくなかったが、1Rが終了。2Rも有効な攻め手のないカマルゴから、腕十字の3Pを奪い快勝した。
▼145パウンド
○ジェフ・グローバー
判定3−0
●シェーン・ライス
2週間前のADCC北米予選で顔を合わせたばかりの両者。スタンドでテイクダウン狙いのライスに対し、グローバーは引き込みから三角絞めを狙うが、これをスラムで叩きつけられる。それでも持ち味であるガードからの仕掛けを続けるグローバーは、ガードと同時にヒザ十字を仕掛け、3−0。2Rはスパイラル・ガードを多用し、ポイントは取れなくても、ポイントを取らせない戦法に終始、そのまま逃げ切った。2週間前に完勝した相手に、グローバーのモチベーションは高くなかったように映った。
▼170パウンド
○マック・ダンジグ
1Rチョーク
●アラン・スボロフスキー
急遽、出場が決定したKOTCライト級王者マック・ダンジグ。黒帯柔術家のスボフスキーを相手に、パワーの差を見せつけ圧勝。アームロックで3Pを奪い、直後にチョークでスボロフスキーを落として勝利を奪った。
写真撮影&レポート=高島学
Photos&Report=Manabu Takashima
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