先日のUFN(アルティメット・ファイトナイト)では、プロレス界のメジャー団体WWEの十八番・米軍慰問興行を行い、今回のPPVショーでは“日本”格闘技発展の象徴的な興行である大晦日イベントに挑んだ勢い波乗り状態のズッファUFC(米国時間では、大晦日イブの12月30日)。
ここで、今夏からUFCに挑み始めた岡見勇信(和術慧舟會 東京本部)が、阪剛や宇野薫という先人が成し遂げられなかったUFC3連勝を成し遂げ、メインでは磐石のライトヘビー級王者チャック・リデルが、ティト・オーティズを相手に完全防衛を果たした。なお、噂になっていたPRIDE無差別級GP覇者ミルコ・クロコップのUFC参戦も正式に発表されている。(写真/デイブ・コントレラス Photo
by Dave Contreras)
ズッファ主催
「UFC 66 Liddell VS.ORTIZ」
2006年12月30 日(土)米国ネヴァダ州MGMグランド・ガーデンアリーナ
▼メインイベント UFC世界ライトヘビー級選手権試合5分5R
○チャック・リデル(アメリカ/王者)
KO 3R3分59秒
●ティト・オーティズ(アメリカ/挑戦者)
2年8カ月振りの再戦となった両者。しかし、ランディ・クートゥアー、ヘナート・ババルを寄付けない王者リデルの充実振りと比較すると、負傷と契約のもつれでオクタゴンを長く離れていたティトの評価は芳しくない。
米国MMA界スターへの登竜門TUF(ジ・アルティメット・ファイター)シーズン3のコーチ役、ケン・シャムロックとの一連の因縁試合で、一般でのネームバリューこそ上昇しているものの、格闘技ファンの間での評価は、ジリ貧状態といっても過言でない。そして、試合前の予想通り、試合はリデルの一方的なものとなった。
リーチの差があり、打撃の応酬では劣勢のティト、テイクダウン狙いのタックルにスピードがないのは致命的だった。大振りの右フックをかわされ、タックルを切られるティトに、リデルの右フックがヒット。
崩れ落ちたティトの顔面に、スタンドのまま長いリーチを活かしたリデル特有のパウンドが襲い掛かる。スタンドの打撃から、立ち上がったままのパウンドで、幾多の強豪を葬ってきたリデル、しかし、この日は、打ち疲れか自ら距離をとり、得意のパターンでティトを打ち漏らしてしまった。
打ち疲れの影響は、2Rにも出てしまった。基本がカウンター・ファイターのリデルだが、そのカウンターも繰り出すことなく、体力の回復に努める。
ここでティトが、ラッシュをかけることができればその後の展開も変わったのだろうが、完全に弱気の虫が顔を覗かせたバッドボーイは、自分の距離で打撃を出すことができない。
何とかタックルからバックを制し、グラウンドに持ち込むことに成功したが、結局はパウンドを放つこともなく、スタンド戦に戻され、勝機を失った。
3R、息が整ったリデルが、最後の勝負をかけ近距離で右ストレートから追撃を放ってきたティトと真っ向から打ち合う。そしてリデルのパンチがクリーンヒット。逃げるようにキャンバスに倒れこむティトに対し、リデルは今度は片ヒザをついてパウンドを落とし続ける。
レフェリーのマリオ・ヤマサキは、反撃も防御もできないティトを見て試合をストップ。打ち疲れという思ってもいない状態に追い込まれたが、それでもしっかりと自分のコントロールしたリデルの完全勝利といえる2006年、UFCラストマッチとなった。
かつてのライバルを完全に倒したリデル、しかし、かつてPRIDEのリングで敗北を喫しているクイントン・ジャクソンが、2007年よりUFCに登場する。ドン・キングが関係していたといわれるWFA(ワールド・ファイティング・アライアンス)を買収したズッファUFCが、WFAが結んだ契約をそのまま履行する形での、ランペイジのUFC初登場。ライトヘビー級に新しい流れが生まれそうだ。
▼第2試合 ミドル級5分3R
○岡見勇信(日本)
TKO 3R4分03秒 ※マウントパンチ
●ローリー・シンガー(アメリカ)
8月の初参戦では、ガチガチに固まっていながらアラン・ベルチャーに判定勝ち。10月にはカリブ・スターンを3RTKOで破っている岡見。UFCの雰囲気に慣れ、3試合契約の最終戦となるこの日のシンガー戦を迎えた。
対戦相手のシンガーは、米国中堅大手プロモーションKOTCやAFC、さらにはPRIDEザ・ベストなどで活躍し、TUFのシーズン3で、トップへの足がかりを掴んだ選手だ。岡見と同様、現在UFC二連勝中と勢いに乗っている。
試合は、距離をとる様子見の打撃戦でスタートを切った。ネクスト・ステップに進むために負けられない両者だが、観客の野次が耳に届くと、徐々にシンガーが前に出始めた。単発のパンチに、距離をとる岡見。ブーイングのなか、1Rが終了した。
2Rに入ると、シンガーの力量を見究めたのか、岡見がいきなり組み付いてテイクダウンに成功。すぐにハーフの態勢をとるが、足を戻されガードの中に。有効なパウンドを放つ前に、ボディを蹴られ、シンガーに立ち上がられるが、動揺は見られない。
再びテイクダウンを奪うと、ケージに押し込み、ヒジを見舞う。片足タックルを狙うシンガーのバックを伺うなど、完全に岡見はペースを掴んだ。ヒジ打ち、アームロック、パウンドと攻め続けた岡見、立ち上がり際に顔面を蹴り上げられるシーンも見られたが、優勢のまま2Rを終えた。
最終ラウンド、動きの落ちたシンガーを岡見が圧倒し始める。ヒザをつきながらの内股でサイドを奪うと、ヒジ打ち。暴れて岡見を押しのけようとするシンガーをしっかり制し、タックルを切るとがぶって頭部へヒザ蹴り。
再びトップポジションを奪い、マウントへ。ここで呼吸を整え直し、足の絡みを外して完全な馬乗り状態になると、あとは仕上げを残すだけだ。怒涛のパウンド連打に防御もままならないシンガーが、キャンバスを叩き、タップアウト。岡見のUFC3連勝となった。
この勝利で、最初の3回契約をしっかりクリアした岡見。試合内容も一戦ごとに良くなっており、契約の継続に障害はないだろう。
ズッファUFCでは、従来の選手(TUF上がりや、WFA契約を買い取った選手=クイントン・ジャクソンやユライア・フェイバー、今回のミルコのケース以外)は、契約更新してからファイトマネーもジャンプアップされるのが常。岡見もショーアップ(出場だけ)と勝者ボーナスで、3万ドルファイターになることが予想される。
結果論だが、UFCの環境に慣れるまで多少の時間を要した岡見、当初予定されていたデイヴィッド・テレル戦が流れ、非PPVマッチでキャリアを積めたことは、彼にとって良かったのではないだろうか。
ただし、二度目の契約が終ると、いよいよ本番。アンデウソン・シウバの持つミドル級世界王座を目指し、初回から勝負をかけないと勝てない対戦相手が、目を光らせて彼のオクタゴン登場を待つことになる。
<その他の試合>
第7試合で、前世界ヘビー級王者アンドレイ・オルロフスキーが、マーシオ・ペジパーノをパウンドで殴り倒し、復活。ミルコ・クロコップの登場で、息を吹き返すことが予想されるヘビー級タイトル戦線に留まることに成功した。
セミファイナルのライトヘビー級戦でフォレスト・グリフィン、第6試合のミドル級戦でクリス・レーベンが、それぞれキース・ジャーディン、ジェイソン・マクドナルドにTKO、一本負けを喫した。
一部の格闘技ファンの間で人気を博したUFCの認知度を、お茶の間レベルまで引き上げたTUF。そのシーズン1でスターの地位を築いたTUF第一世代が、タイトル戦線に絡むことなく、ベルトから遠ざかる。メジャーUFCの闘いは、いよいよ厳しさを増してきた。
▼セミファイナル ライトヘビー級5分3R
○キース・ジャーディン(アメリカ)
TKO 1R4分41秒
●フォレスト・グリフィン(アメリカ)
▼第7試合 ヘビー級5分3R
○アンドレイ・オルロフスキー(ベラルーシ)
KO 1R3分15秒
●マーシオ・ペジパーノ(ブラジル)
▼第6試合 ミドル級5分3R
○ジェイソン・マクドナルド(アメリカ)
一本 2R4分03秒 ※チョークスリーパー
●クリス・レーベン(アメリカ)
▼第5試合 ライトヘビー級5分3R
○マイケル・ビスピング(イギリス)
TKO 1R4分29秒
●エリック・シャファー(アメリカ)
▼第4試合 ウェルター級5分3R
○チアゴ・ピッチブル・アウベス(ブラジル)
TKO 2R1分10秒
●トニー・デソーザ(ペルー)
▼第3試合 ヘビー級5分3R
○ガブリエル・ナパォン・ゴンサガ(ブラジル)
一本 1R3分22秒 ※腕ひしぎ十字固め
●カルメロ・マレーロ(アメリカ)
▼第1試合ヘビー級 5分3R
○クリスチャン・ウォリッシュ(アメリカ)
判定3−0
●アンソニー・ぺロシュ(オーストラリア)
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