ZUFFA
「Ultimate Fighting Championship 67」
2007年2月3日(土・現地時間)米国ネヴァダ州ラスベガス
マンダレイベイ・イベンツセンター
「ウォーッ」、自らの状態をチェックするリングドクターやセコンドたちを払いのけるように叫び声を挙げたエディ・サンチェス。精一杯睨みを利かせた顔を作っているものの、その雄たけびはまるで、KO負け→失神でなく、マウントを奪われパウンドを受けながらのレフェリーストップ負けに、ようやく恐怖心を振り払うことができた負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。
この日、注目のUFCデビューを果たしたミルコ・クロコップ。その存在感の大きさが、対戦相手のエディ・サンチェスに玉砕覚悟のアタックさえ許さなかった、完勝で新しい道を歩み始めた。
▼第8試合ヘビー級 5分×3R
○ミルコ・クロコップ(クロアチア)
TKO 1R4分33秒
●エディ・サンチェス(米国)
まるで、スーパーボール・ウィークエンドで街中お祭り騒ぎのラスベガスということを疑いたくなるほど、あちらこちらに見えるクロアチア国旗。そしてミルコという文字の入ったTシャツを着た人々。PRIDEのテーマ曲で入場したミルコは、まるでホームタウンのような熱狂的な声援に迎えられ、オクタゴンへ歩を進めた。
「リングもケージも関係ない」というミルコは、開始早々まるで恐怖心を振り払うかのように闇雲に突っ込んできたサンチェスのパンチを軽くかわした。これがこの試合で、ミルコが見せた唯一といってもいいバックステップだった。
すぐに態勢を入れ換えたミルコが左ストレートをヒットさせると、サンチェスは右目に手をやる。まるで恐怖心に目を瞑るかのように、目の前の敵に集中できないようになっている。続いて左ミドルを受けると、完全にミルコのプレッシャーに呑まれ、その後は常に左回りで距離を稼ぐことに専念するようになってしまった。
時おりサンチェスのラフなパンチが、ミルコの顔面をかすめることもあるが、腰の入らない手打ちパンチに動じるわけもなく、左ハイ、右ロー、そして左ストレートと、確実に追い詰めていく。
左に回りながら、右ローキックを左足に受けるサンチェス。ならばと、決死の覚悟で前進しても、首相撲でいなされる。左回りを続ける対戦相手に、業を煮やすこともなく冷静に追い足を速めたミルコ。サンチェスが前進しパンチからヒザ蹴りを繰り出し、距離をとろうとしたところに左ハイキック一閃。ドタバタと後ろずらりしながら、何とか左へ回り続けるサンチェスの顔面に続いて左ストレートをヒットさせた。
サンチェスは、ついにケージを背にしながら尻餅をつく。ミルコは一気に距離をつめて、一瞬ギロチンに捉えると、すぐに突き放して左ストレート。さらに左のパウンドを見舞って、マウントを取る。
ここでも爆発的という表現より、確実に――という表現が相応しい正確なパウンドを見せたミルコは、まったく危なげない試合運びで4分33秒、TKO勝ちを収めた。
サッカーボール・キックやストンピングがなくても、リングでなくても、しっかりオクタゴン+UFCルールに対応してみせたミルコ。対戦相手の実力を考慮しても、上々のお披露目となったといえるだろう。
ただ、場内を十分すぎるほどわかせたミルコだが、大会終了後の共同会見に姿を現さなかったため、米国の記者から「高いファイトマネーを支払っているのに、ここにこないことをどう思う?」など、ダナ・ホワイト社長に厳しい指摘が何度もとんだ。
「このスポーツの素晴らしいところは、選手たちが素晴らしい人格者であるということ。ただ、ボクシングには、そうでないファイターも多い。ファイターがすべきことは強さを見せることであって、みんながみんなランペイジのような(よく話をしていくれる)人間ではないんだ。色々な人間がいるから、そこまでは求めていない。ただ、プロモートする側の人間として言わせて貰うと、シリアスにファ○ン・フラストレーションが溜まるよ」とホワイト社長。
米国のプロフェッショナル・スポーツは、欧州や日本のそれと違い、物凄くファンを大切にし、プライベートを侵害しない代わりに、共同会見で記者とのコミュニケーションはしっかりとることが通例とされている。
実は米国人記者の中では、すでにミルコがファンの呼びかけに対し、「ノー・ピクチャー」と見向きもしなかったことが話題になっており、会見欠席で彼らの不満が顔を覗かせた次第だ。
これまでUFCで闘ってきたファイターは、UFCがあって自分があるということを心得ている。また、裏舞台ではプロとして厳しい要求をしているティト・オーティズなどスター選手も、会見場では常に多弁だ。愛想の悪さで有名だったヴィトー・ベウフォートもUFC出場時には、しっかりと記者やファンと対応をしていた。それが、UFCが根付くアメリカの文化だ。
ただ、ミルコは他の多くの選手と違いUFCあっての自分――ではなく、UFCが最も欲した選手だ。リング上で強さを見せて(かつファンの支持を集めて)いれば文句は誰もいえない。
日本にも似た、マスコミ(ズッファが成功を収めた以降)、プロモーション、ファイター――の中に共存共栄の意識が見え隠れたしたUFC、ミルコの出現はあらゆる面で波紋を呼ぶことになるかもしれない。
なお、共同会見終了後に、ホワイト社長から次回のミルコの試合は4月21日に英国マンチェスターで行なわれる大会という発言があった。
3月3日オハイオ州コロンバス=UFC68、4月5日ラスベガス=UFN、そして7日にテキサス州ヒューストン大会、さらに前述の英国大会。「世界中のトップ選手を獲る」と宣言したホワイト社長はさらに、「グローバル・ドミネーション」という言葉で、地球的規模でMMAを支配することも公言した。英国に続き、カナダ、メキシコ、そして日本がそのターゲットである。
写真撮影&レポート=高島学
Photos&Report=Manabu Takashima
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