史上初、4人の日本人が出場したUFCファイトナイト
勝利は弘中一人――、厳しいオクタゴンの現実
ZUFFA主催
「UFC Fight Night 9」
2007年4月5日(木)米国ネヴァダ州ラスベガス
パームス・ホテル&カジノ ザ・パール・コンサートセンター
大会前のオッズで、日本人で有利と出ていたのは弘中邦佳のみ。
楽観できる要素など、大会前からなかった。
が、1勝3敗という現実に、その試合内容に、とにかく北米で闘うこと、オクタゴンで闘うこと、ヒジ有りで闘うことの厳しさを改めて知らされる大会となった。(情報・写真提供:Fight&Life)
▼第1試合 ライト級5分×3R
○チアゴ・タヴァレス(ブラジル)
判定3-0
●小谷直之(日本)
オープニングファイトに出場した小谷。米国での試合は、MFCやXFOを経験しているが、どれほど現在のUFCを意識して米国に乗り込んだのかという点では、疑問符の残るファイトとなってしまった。対戦相手のチアゴ・タヴァレスは、とにかく前評判の高い選手だった。
しかし、大会開催が初めてとなる会場では、進行も普段どおりのUFCではなく、選手のアップもままならない状態だったことが影響したのか、打撃にしてもタックルにしても、タヴァレスのそれには切れが見られない。テイクダウンを奪っても、手数が少なくブレイクになる。その後、スタンドの状態からアームロックを仕掛けた小谷だが、ここでトップを許しエルボーを受ける。
2R、ワンツーから距離を詰めてテイクダウンを狙うタヴァレスがギロチンを見せるが、小谷はエスケープに成功、そして待望のトップポジション奪取。しかし、小谷もここで攻め手がない。終盤、小谷はマウントを奪われながらも、ケージを蹴って脱出に成功したが、劣勢は否めないまま最終ラウンドへ。
すぐにグラウンドで上になったタヴァレスだが、小谷はリバーサルに成功。ここで逆転を狙うためにセコンドが「スタンド」と指示を出す。が、インサイドガードをキープした小谷は結局、1分後にレフェリーがブレイクを命じられ、タヴァレスにダメージを与えることができないままスタンドに戻ってしまった。
残り時間2分となり、ケージ際でもトップを取ることに成功したが、またもや攻め手を欠くと、体勢を返されてしまい試合終了。
「雰囲気とかが違って、100%の力が出せなかったです」という小谷。この飄々としたところを強さに転換させるには、どうすれば良いのか。潜在能力でいえば、十分に勝てる試合。しかし、準備と心構えが欠けていては、致し方ない敗北だった。
▼第3試合 ウェルター級5分×3R
○弘中邦佳(日本)
判定3-0
●フェレスト・ペッツ(米国)
10月のジョン・フィッチ戦以来、約半年振りのUFC登場となった弘中。対戦相手のペッツは、計量時とは打って変わり、肩の周囲の肉のつき方など、弘中の二回りも大きく感じる。
ただし、このペッツ、ロングレンジから強烈なパンチを繰り出すものの、組み技や寝技ではアベレージを下回る。
一発をもらわないように慎重にテイクダウンを奪った弘中。ペッツが尻餅の状態から手をついて立ち上がろうとすると、左手でその手首を掴み、右腕は脇をすくって立たせない。
背中をつけたペッツに対しては、自らの体を右へ左へ自由自在に動かし、袈裟固めの状態へ。そこからアームロックを仕掛ける。ペッツは後転するように両足で弘中の右脇を挟みこみ、パワーで脱出。
しかし、トップをキープした弘中は、インサイド&ハーフ、そしてニーインの体勢からパウンドを放つなど、優勢のまま初回を終えた。
2R、たった一発の打撃でKO勝ちが奪えそうなペッツのロングレンジのフックに対し、弘中はコンパクトな左を入れると、再びタックルからテイクダウン。
マウントを奪うが、ここはペッツのシザースで返され、下になってしまう。ガードワークからの仕掛けを見せることなく、腰を引いて中腰の状態なった弘中、ヒザ蹴りを狙うペッツからまたもテイクダウンに成功した。
最終ラウンドも慌てず、打撃の距離を見究め、テイクダウンからパス。立ち上がろうとしたペッツをマットに押し込み、今度はサイドからヒジ、パウンドを落とす。
試合終了間際には腕十字を狙ったが、ここでタイムアウト。一発を持つ相手から、常に有利なポジションを奪い続け嬉しいUFC初勝利を挙げた。安全策といえば、安全策。しかし、何よりも勝ち星が必要だった弘中にとって、この勝利の意味は大きい。
▼第5試合 ウェルター級5分×3R
○ドリュー・フィケット(米国)
判定 3-0
●中村K太郎(日本)
グラップリングでの活躍が目立つことから、寝技系のファイターという印象が強いK太郎だが、実はボクシングの技術も相当なもの。パンチの打ち合いで、フィケットに勝負を挑む。
オクタゴン中央での打ち合い、さらに差し合いともつれるような展開の中、フィケットがK太郎の頭部を左手で固定する。両手でフィケットの体を押しのけようとした離れ際、右エルボーがK太郎の顔面にヒット。
もんどりうつように倒れこむK太郎。いきおい盛んに攻め込んでくるフィケットがバランスを崩すと、バックを伺うが、すぐに前方と落とされる。
目が潤み、焦点が合わないK太郎は、ここから3R終了まで記憶が途切れた状態で闘い続けることとなった。意識を朦朧とさせながら、トップを奪い返すことに成功したK太郎だが、いつの間にか左目尻を大きくカットし、大量の出血が見られる。
それでも、ラウンド終盤にはパウンド攻撃でフィケットを追い込んだK太郎は、2Rに入ると試合のペースを完全に自分のものとする。スタンドの打撃戦で殴り勝つと、ここでフィケットが目に見えてペースダウン。肩で息をし、大振りのパンチでバランスを崩していく。上を取ったK太郎は、サイドで正座したような体勢からパウンドを落とすが、ここで勢いあまって垂直にエルボーを落としてしまう。この反則で、試合は一時ストップ。
左頬を辺りに反則のエルボーを受けたフィケットは、なぜか頭のてっぺんをさすり、千鳥足でニュートラル・コーナーへ向い、ドクターのチェックを受ける。
あからさまは反則勝ち狙い、そして乱れた息を整えるための三味線をひく。しかし、反則を犯したのはK太郎、非は彼にある。そのK太郎にマイナス1Pが宣言され、試合はリスタートした。
と同時に、先ほどまでの千鳥足もどこへやら、しっかりスパートをかけたフィケットがテイクダウンを奪いエルボー攻撃を見せ2Rが終了した。
最終3R、減点があるもののポイント的には挽回が可能なK太郎だったが、ケージ際までフィケットを追い込みながら体勢を崩され、テイクダウンを奪われてしまう。
この頃になり、ようやく記憶がハッキリしたというK太郎。しかし、クリアになった彼の脳細胞が察知したのは、疲れて体が動かせないということだった。
エルボーの連打に防戦一方となり、フィケットの気合がこもったジャンプしてのパンチを受けながらも、三角絞めを狙ったが、これを察知されると万事休す。試合終了のホーンがなり、K太郎のUFC連敗が確定した。
一発のスタンドのヒジ、そして反則の垂直に落とすヒジ。ヒジで敗れたK太郎、2Rの猛攻が凄まじかっただけに、本当に痛い反則(といっても本人は記憶にない)となってしまった。下手な演技を打ってまで勝ち星を挙げようというフィケットの執念、日本人選手も見習うべきことではないだろうか。
▼第7試合 ライト級5分×3R
○ケニー・フロリアン(米国)
一本 3R3分57秒 リアネックドチョーク
●三島☆ド根性ノ助(日本)
11月のUFC初参戦で、ジョー・スティーブンソンのギロチンで呆気なく敗れてしまった三島。あの敗北をきっかけに、本気モードとなりUFC再挑戦を果たしたが、ある意味、初戦よりもショッキングな敗北を喫してしまった。
対戦相手のフロリアンは、TUFシーズン1(=ミドル級)の決勝進出者で、その後ウェルター級〜ライト級と階級を下げた選手。昨年10月にはライト級王座決定戦に挑む、ショーン・シャークに敗れている。
ベガスのギャンブラーはともかく、日本の関係者にはややハードな試合になるかもしれないが三島の勝利は堅いと思われていた一戦。だが、三島が攻勢に出られたのは、試合開始早々にテイクダウンを奪い、足を畳むフロリアンにパウンドを仕掛けたシーン、そして2R終了間際のギロチンチョーク、試合終了直前のヒザ十字の三箇所のみ。
特に最後のヒザ十字は、フロリアンに「最後まで気を抜くと大変なことになると教えてもらった」と言わしめたほど。しかし、ここを凌がれると、バックを奪われパウンドの連打から、スリーパーで敗れてしまった。
一本負けよりも何より驚かされたのは、三島がジャブで距離をコントロールされ、左ローキックを受け続け、最後は歩行困難になるほどダメージを受けたこと。
そして、テイクダウンを狙うも、最後はトップを奪われ続けたことだ。試合が進むほどにフロリアンの勢いが増し、反対に三島の心が折れていくように感じられた。
もはやベテランの域に達した三島に対し、「僕はミシマをとても尊敬している。サムライのハートを持っている。日本のライト級選手は強い。ゴミ、サクライ、カオル・ウノを尊敬している。KID・ヤマモトや彼らに比べると、僕なんてベイビーみたいなもんさ」とサラリと言ってのけたフロリアン。
彼のジャパン賛辞の言葉とは裏腹に、三島が、こんな姿で敗れるということは、UFCライト級のレベルが急激に上がっていることの表れでしかない。
<その他の試合>
▼メインイベント ライト級5分×3R
○ジョー・スティーブンソン(米国)
一本 1R0分27秒 ※ギロチンチョーク
●メルヴィン・ギラード(米国)
パンチを効かせ、足関節狙い。それを嫌ったギラードがタックルに来たところに伝家の宝刀一閃。スティーブンソンが完勝した。
▼セミファイナル ヘビー級5分×3R
○ジャスティン・マッコーリー(米国)
判定3-0
●アントニ・ハードンク(オランダ)
フランク・ミアーの代役マッコーリーが、ヒクソン・グレイシー柔術のTシャツを着用したアーネスト・ホーストをセコンドにつけたハードンクからトップを奪い続け判定勝ち。なんとも大味な試合だった。
▼第6試合 ライトヘビー級5分×3R
○ウィルソン・ゴヘイア(ブラジル)
一本 2R ※ギロチンチョーク
●セス・ペトロゼリ(米国)
1Rからポジショニングで優位になったゴヘイアが、2R開始早々にギロチンを極めた。
▼第4試合 ライト級5分×3R
○カート・ペリグリーノ(米国)
一本 1R2分58秒 ※アキレス腱固め
●ネイト・モー(米国)
パンチの鋭いモーに対し、これも動きのスピーディなペルグリーノが、一瞬の隙をつきアキレス腱固め。リスキーな動きを仕掛けることができるのも、外されたときの対処があるから。「ライト級は練習パートナーのエルミス・フランカの階級、僕のベストはフェザー級」だとペルグリーノ。Zuffa首脳にもう一階級軽いウェイト・クラスの創設をアピールした。
▼第2試合 ウェルター級5分×3R
○ホアン・ジュカォン・カルネイロ(ブラジル)
判定3-0
●リッチ・クレメンティ(米国)
テイクダウン、ポジショニングでクレメンティを圧倒したジュカォン。元祖アナコンダ・チョーク、スリーパーで攻め込むが、クレメンティの粘りに一本勝ちは逃した。
サイドをとっても、ほとんどエルボーを使わなかったように、あまりUFCルールの研究をしていかったジュカオンだが、テイクダウンの強さ、そして極めの強さでUFCウェルター級戦線の台風の目になる可能性もある。
なお、ジュカォンと同じBTT所属、会場に姿を現したアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラは、「今日はジュカォンの応援に来た。UFCとの交渉? やっていない。PRIDEとUFC、二つの巨大プロモーションが選手の交流を始めることは良いことだよ。僕は日本で今の地位を築くことができたファイターだ。また日本で闘う。日本で闘うことが大好きだから」と語った。
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