「スッグ・ペットインディー」
2008年11月25日(火・現地時間)タイ・ルンピニースタジアム
▼第2試合 WPMFスーパーフェザー級王座決定戦 3分5R
○ナカムラ・オーピリヤピンヨー(=中村元気/日本/クロスポイント・ムサシノクニ)
判定3−0 ※三者とも49−48
●クリス・ソーワラピン(=クリス・フォスター/スウェーデン)
※ナカムラが新チャンピオンの座に就く。
タイを拠点に試合を続けるナカムラ・オーピリヤピンヨーこと中村元気(日本の所属はクロスポイント・ムサシノクニ)が、ルンピニースタジアムでWPMF(世界プロムエタイ連盟)のスーパーフェザー級王座を手に入れた。
11月25日、ルンピニースタジアムの興行の中でも好試合が多く組まれることでファンに大人気のスッグ・ペットインディー。日本人選手がタイで試合をする場合、通常はメインの後で観客やマスコミの多くが帰ってしまう「後座」が多いが、ムエタイ業界の一員として認知されている中村は目の肥えた賭け師たちが熱い視線を注ぐ第2試合のリングに上がった。
対戦相手はアフリカ系スウェーデン人のクリス・フォスター。彼も同じくタイをベースにクリス・ソーワラピンの名前で試合をかさねるムエタイ選手である。この試合にはタイで権威の高いプロムエタイ協会を母体に持ち、新興団体といえども侮りがたいWPMFのタイトルが懸かっている。試合前の予想ではクリスがわずかに有利と伝えられた。
1R、ムエタイでは様子を探り合い全力を出さないことが多いが、両者は初めからアクセル全開で攻め合いに出た。クリスは右のミドルを積極的に出し、サウスポーの中村は左のローキックとパンチで対抗する。
2R、「相手によって戦い方を変えています。向こうは脚が細かったし、打たれ弱いタイプだと思ったのでダメージを与えたかった」という中村は、初回と同じくローとパンチを主体にしながらも、ときおり左ミドルを織り交ぜる。一方、ヒザが得意なクリスは何度も首相撲を仕掛けてくる。しなやかな身体を活かした右ヒザは要注意だが、ラウンド終了後にギャンブラーたちの提示する賭け率は5−4で中村を支持。
3R、クリスは近い間合いから首相撲に持ち込んでくるが、中村もきれいな左ヒザを1発返し、離れては左ミドルでポイントを稼ぐ。外国人同士の試合とはいえ、存分にムエタイのテクニックを駆使している2人に、タイ人ファンも惜しみない歓声を送る。ヒザ蹴りを重視するムエタイだけに、この時点で会場の賭け率は3−1でクリスに大きく傾いた。中村ピンチか!
しかし4R、試合の流れは徐々に中村に傾く。自分から組んでいきながらも明確に首相撲の主導権を取りきれないクリスはヒジを多用し始め、攻めが雑になってきた。体力に余裕の見える中村は着実に左ミドルとパンチで攻めていく。賭け率は再逆転し2−1で中村。
最終5R、中村の勢いは衰えないがクリスの減速を見て取ったギャンブラーたちは中村が有利と判断。勝利の手応えを得たセコンドから指示された中村は、残り1分を深追いせず流したまま試合終了のゴングを迎えた。
ポイントの集計をする間、両選手ともにリング上で勝利をアピールする。中村は「勝ったかどうか自信は半々でした」と試合後に正直な気持ちを話してくれたが、結果は日本人選手ナカムラ・オーピリヤピンヨーがジャッジ三者とも49−48の判定で接戦を制した。
リングから降り、長い時間をかけて大勢の観客の記念写真に応じ、さらにルンピニースタジアム総支配人チャルームギアット陸軍少将の祝福までも受けた中村だが、手に入れたばかりのタイトルなど気にとめないかのように「これからです。もっと経験を積みたい」とさらに上の目標への思いを強くしていた。
↑赤がクンポンヂィウ、青の背の高い方がヨードペット。
この日のメインは第5試合。当初は軽量級のスター、クンポンヂィウ・セーンサワーンパンプラーが、一回り体格の大きいヨードペット・ウォーサンプラパイを挑戦者に迎え、前月は勝利したタイ国フライ級(112ポンド)王座防衛戦のリマッチになる予定だったが、タイトル戦はキャンセルされ通常の試合として行われた。
こうしたことはムエタイではときどき起こりうる。背の高いヨードペットに112ポンドの身体を作らせるのが難しかったのだろう。タイのファンはチャンピオンベルトに敬意は払うが、無理な減量をして実力を出し切れない選手の試合よりも、ノンタイトル戦であっても実力が拮抗した対戦を好む。もちろんその背景にギャンブルがあるのは言うまでもない。
結局体重はクンポンヂィウが113ポンドに対し、ヨードペットがスーパーフライ級のリミットと等しい115ポンドのハンデ戦(もしタイトル戦が成立していたとしてもクンポンヂィウは110
ポンドと2ポンドのハンデを背負う契約になっていた。強豪選手の宿命である。
試合は身体の大きいヨードペット有利という予想の中、パンチと前蹴りで距離を取り上手に体格差を消していったクンポンヂィウが試合をドローに持ち込んだ。
文・写真=吉澤晃(サイアムスポーツ)
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