「Ultimate Fighting Championship 62 Liddell vs Sobral」
2006年8月26日(土)米国ネヴァダ州ラスベガス
マンダレイベイ・イベンツセンター
▼第1試合ミドル級 5分3R
○岡見勇信
判定3−0 ※30−27、30−27、29−28
●アラン・ベルチャー
岡見の勝利が告げられると、観客席からブーイングが聞こえてきた。3−0の判定に異論は起こり得ない、ジャッジ二人が30−27のフルマークで岡見、一人が29−28をつけたこと自体が、信じられないような完勝だった。
ただ、本人も認めるように「勝利が必要だったので、大事にいきすぎた」という課題が残る完勝劇であったことも、また間違いない。
1Rから、大振りのパンチを振り回すベルチャー。本来であれば、組み付いてテイクダウンを奪いやすい相手だった。しかし、極度の緊張のためか、岡見の動きは固い。パンチを打ってくる相手に、距離をとって防御に徹していたため、見た目の印象が悪い立ち上がりになってしまった。それでも岡見は中盤以降にテイクダウンを2度奪い、すぐに戻されたがマウントの態勢になるなど優勢のままUFC最初のラウンドを終えている。
ようやく体もほぐれた2R、ヒザを受けながらすぐにテイクダウンを奪うと、パスに成功。ヒジを落としながら、ベルチャーをケージに押し込んだが金網を蹴り上げられ、スタンドに戻られてしまう。それでも、すぐにテイクダウンを奪い返し、パスから再びマウントを奪取。ガードに戻されたところで2Rが終了、このラウンドも岡見のものだった。
3Rになると、試合は完全に岡見ペースで進んだ。大振りのパンチでスタミナをロスしたベルチャーに組み付き、スタンドのままでバックを奪いチョークを狙う。これを素早い背負い投げのようにベルチャーが豪快に前転し、観客席から大声援が送られた。
ただし、岡見はしっかりバックマウントをキープ、何の痛手もない。その後、チョークを狙うが態勢を返され、またもベルチャーに観客の声援が集中する。ベルチャーが追い込まれているからこその大声援、つまり岡見はそれだけ試合を優勢に進めながら、仕留められない展開が続いていた。
この試合、初めてガードを強いられた岡見だが、落ち着いてアームロックからヒップスローを仕掛ける。その後、ベルチャーが立ち上がってケージ際での組み合っている最中に試合は終了。こうして岡見は判定でUFC初出場、初勝利を手にしたわけである。
勝利者インタビューで「まだまだです。次はもっといい試合をします」と本人が語ったように、納得の勝利ではない。
スタミナをロスした相手から、キッチリ一本を奪うことができなかった。相手の集中力が途切れ、間が空いたのに一気呵成に攻められる機会を何度も逃すシーンも気になった。
とはいえ、勝利を収めたことに変わりない。必要最低限、絶対に必要な結果を手にしたのだ。これからUFCにおける岡見の本当の戦いが始まる。
ボクシング偏重のジャッジに好印象を与える試合――、一つ一つの打ち合いで打ち勝つこと、打たれたら打ち返すこと。何よりも観客の声援を受ける攻撃を仕掛けることが大切だ。
観客の支持を得られないがために、連勝中の選手が契約更新できなかったケースもUFCでは多々見られる。勝利と人気、一つが欠けると、頂点に立てない。岡見は、そんな厳しい道程を進む権利を、自らが"苦笑い"を浮かべる勝利でもぎ取ったのである。
●岡見の試合後の談話
「まぁ、ブーイングもありましたが、何というか勝てて良かったです。勝つための試合運びになってしまったような感じはあります。やっぱり、UFCということもあって、凄く緊張しました。試合前夜から緊張してしまって、今まで一番ヤバイ感じでした。UFC関係者の人も『コングラチュレーション』と一応言ってくれましたけど、試合に関してはいい動きができなかったです。アグレッシブでもなかった。
ただ、自分の中では勝つことがとても大切だったんです。これが事実上、海外で初めて勝利ですし、これが始まりだと思って頑張ります。次に呼ばれたときには、お客さんを満足させ、自分も納得できる試合にしたいです」
▼第9試合メインイベント UFC世界ライトヘビー級選手権試合5分5R
○チャック・リデル
TKO 1R1分35秒
●ヘナート・ババル
2002年、チャック・リデルのハイキックで破れて以来、ヘナート・ババルは10連勝でこの日の再戦、そして王座挑戦権を手にした。母国ブラジル、英国、UFCと同じ米国で行われているIFCでは、あのマウリシオ・ショーグンにキャリアで唯一の黒星も与えている。
その後、UFCと再契約を果たしてからは、腕十字、三角絞め、スリーパーと全ての試合で一本勝ちを収めている。そう、今や全米でカリスマ的な人気を誇るリデルにとって、最強のチャレンジャー、それがババルだった。
が、リデルはそのババルを僅か95秒で完膚なきまでに叩き潰した。テイクダウンから寝技狙いと思いきや、パンチの連打で前進してきたババルに対し、得意の右ストレート一閃。前のめりに倒れるババル。勝負は、この一発で決していた。
背中を向けたババルを相手に、あえて寝技にいくことなく後ろからいたぶりにつけるようにパウンドを落とし、スタンドの攻防に先導すると、左右のパンチの連打。再びもんどり打つようにキャンバスに倒れこんだババルは、ガードポジションを取ろうとするが、ダメージが大きく全く足を利かせることができない。そのババルの両足を簡単に振り払ったリデルが、立ったままの態勢で顔面を殴りつけたところで、レフェリーが試合をストップした。
最強の挑戦者に有無を言わせず返り討ちしたリデル、一度は現実味を帯びたPRIDE王者ヴァンダレイ・シウバとの対戦が絶望的になった今、彼のライバルとなる選手は、UFCでは見当たらないといっても過言でない。
ちなみに彼の次の防衛戦は、12月30日ラスベガスMGMグランド・ガーデン・アリーナで、ティト・オーティズ(10月10日のケン・シャムロック戦をクリアする必要がある)の挑戦を受ける予定だ。
▼第8試合ライトヘビー級5分3R
○フォレスト・グリフィン
判定3−0
●ステファン・ボナー
TUFシーズン1決勝戦の再戦は、前回同様、パンチの打ち合いとなり、グリフィンがボナーを判定で下す。寝技の攻防が一度もない、休むことを知らぬ両者の打ち合いに、観客席は大いに盛りあがり、スタンディングオベーションが起こった。が、両者がダメージが残る位置まで距離を詰めることのない(特に敗者のボナー)ようにも感じられる一戦であった。
▼第7試合ウェルター級5分3R
○ニック・ディアス
一本 3R ※アームロック
●ジョシュ・ニアー
寝技で秀でた力を持ちながら、なぜか最近の試合では手打ちのパンチを延々と出し続けるディアス。ニアーはその軽そうな打撃を食らい続け、ダメージが蓄積していったのか、3Rにテイクダウンからキムラ・アームロックでタップ。足で対戦相手の頭を挟むことなく極めた、えげつない腕関節でディアスが復活の勝利を挙げた。
▼第6試合ヘビー級5分3R
○チーク・カンゴ
TKO 1R2分51秒
●クリスチャン・ウェルッシュ
オランダ限定リングス無差別級王者としても活躍していたこともあるフランス人ファイター=チーク・カンゴが、前回大会に引き続きインパクトの残る勝利を挙げた。テイクダウンからすぐにマウントを許したが、腕十字を凌ぎ、スタンドへ戻るとヒザ、強烈なパンチのラッシュ。最後もヒザ一発で、ウェルッシュが吹っ飛びTKO勝ちを収めた。
▼第5試合ライト級5分3R
○エルミス・フランカ
一本 3R3分31秒 ※腕十字固め
●ジャーミー・ヴァーナー
ヴァーナーのテイクダウン、そして精度は低いが、やたらと振り落としてくるパウンドに悩まされたエルミス・フランカが、最後はオモプラッタから腕十字を極め見事な一本勝ち。ガードからの攻めは、極めないと評価の対象にならないUFCにあって、果敢に下から勝機を待ち続けた勝利だった。
▼第4試合ライトヘビー級5分3R
○エリック・シャファー
一本 1R2分24秒 ※肩固め
●ロブ・マクドナルド
柔術茶帯のシャファーは、見るからに打撃に不慣れだったが、テイクダウンされた勢いでそのままトップを奪いマウントへ。マクドナルドが背中を向けるとチョーク、対戦相手の動きに合わせ冷静に肩固めへ移行、タップを奪った。
▼第3試合ライトヘビー級5分3R
○ウィルソン・ゴヘイア
一本 1R3分23秒 ※リアネックドチョーク
●ウェズ・コブス
アメリカントップチームの重量級エース候補ゴヘイアが、打撃でコブスをケージ際まで追い込みテイクダウン。一気にバックマウントを奪ってチョークで一本勝ち。
▼第2試合ライトヘビー級5分×3R
○デビッド・ヒース
一本 1R2分32秒 ※リアネックドチョーク
●コーリー・ウォルムズレー
試合開始早々ウォルムズレーをテイクダウンしたヒースが、パウンドを落とした後にスルリとバックを奪い、チョークでタップを奪う。
写真撮影&レポート=高島学 Photos&Report=Manabu
Takashima
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