BEG
「bodogFIGHT Season 1 Finale」
2006年12月2日(土・現地時間) カナダ バンクーバー アグロドーム
▼第11試合 スーパーヘビー級5分×3R
○ホジャー・グレイシー(ブラジル)
一本 1R3分38秒 腕ひしぎ十字固め
●ロン・ウォーターマン(米国)
UFC創世記に、ホイス・グレイシーの活躍がなければ、今のMMAの隆盛もない。総合格闘技発展に多大なる影響を及ぼしたグレイシー一族。
総合格闘技のベースとして、柔術の動きを世に広め、ブラジリアン柔術そのものが世界に広まる原動力となった。ヒクソン・グレイシーの不敗神話、「小さな者が勝てる」、「グレイシー柔術のためなら死ねる」などという、リング下での言動で、人々を惹きつけてきた。
→オープンフィンガーグローブ姿が、新鮮なホジャー・グレイシー
その後、総合格闘技は寝技での時間制限、ラウンド制を導入するなど、彼らが実践してきたマラソン的生き残りを賭けた勝負から、短距離競技のごとくいかに勝ちあがるかという闘いに変化した。ビジネス的にも大きく発展した裏で、グレイシーの敗北は珍しい光景ではなくなっていった――。
そんななか、ボードッグファイトでホジャー・グレイシーがMMAデビューを果たした。MMAでグレイシー王朝の復活となるのか、総合で強いグレイシーが見られるのか。
「ボクシングを少しやってきた」というホジャーのスタンドでの構えは、両腕を顔の高さで伸ばして構える――あのオールド・スタイルではない。やや真正面すぎるきらいはあるが、オーソドックスな打撃の構えだ。
ホジャーは一発のジャブも振るうことなく、ウォーターマンに組み付かれ、コーナーに押し込まれた。やはりヒザ蹴りも、小さなパンチもホジャーは出さない。
試合前日に叔父ヘンゾは「自ら引き込むことない」と言っていたが、スタンドで打撃を貰うことなく、結果的にテイクダウンを許し、ガードポジションの態勢へ。
→ガードでは見栄えのある動きを見せないのも柔術の試合と同じ
しっかりクローズドで、ウォーターマンのボディに絡みつくホジャー。ガードの状態での引き付けの強さは、柔術界では知らぬ者がいないほど有名だ。
案の定、なんでもないガードポジションにウォーターマンの動きがとまる。ホジャーは脇を差すのではなく、右腕をウォーターマンの首に絡みつくような姿勢をとる。ここで、初めてウォーターマンはパウンドを繰り出すが、落差も小さくダメージを与えることはできない。
ロープに頭を押し込まれて身動きがとれないホジャーは、なんとか頭をリングの中央の方に向けようとするが、ウォーターマンも背中に腕を回し許さない。
→最後は、「安全な技」と自らが言う腕十字で一本勝ち
ここでレフェリーから、(ブレイクでなく)ドントムーブの声がかかり、頭を中にして試合が再開。クローズドガードのホジャーの両足が肩口付近まで上がり、右手でウォーターマンの股をすくおうとする。この動きを察知したウォーターマンが、しっかり腰を下ろすと、待っていましたとばかりに腕十字へ移行。ホジャーが渾身の力を込めると、ウォーターマンはあえなくタップ。
ヘンゾ、ヒカルド・アルメイダ、イーゴー・グレイシーらがリングに上がり、ホジャーを抱え上げ歓喜の輪が広がっていく。
「パウンドを受けた感想? いや、あれは当たったうちには入らないよ」と、試合を振り返ったホジャー。正直、そこにはアブダビで無差別級を制したときのような気持ちの高ぶりは見られず、安堵感が大いに感じられた。
期待通りの勝利。ある意味、見事な一本勝ちといえるだろう。だが、期待されたシーン――ホジャーが打撃を駆使する姿や、反対にホジャーが強烈な打撃を受けるという試合展開は見られなかった。
ホジャーの勝利は、まさに柔術ウィズアウト・キモノ的な動きで得たもの。それは、現在のMMAでトップを走るヘビー級選手たちとの闘いを連想できるような試合ではなかったのも事実だ。
リングサイドでこの試合を観戦したジョシュ・バーネットは「彼のベースの強さは疑いようがない。そして、その強さで勝った試合だ。強いパンチを受けたり、危機的な場面になったらどうなるのか、MMAでの真の力はまだ分からないね」と語っている。
「次の予定は?」という記者の質問に、「何も決まっていないよ」とホジャー。「ADCC?」と言葉を続けると、「そうかもね」という返答。
ホジャーは、大切なMMAデビュー戦を見事な一本勝ちで勝利した。ただ、バーネットが語った通り、MMAヘビー級のヒエラルキーの外の試合。この試合で勝利した意味は、これから彼が歩んでいく道によって、ハッキリしてくるだろう。
ちなみにホジャーの実父マウリシオ・ゴメスは「ホジャーはバーリトゥード・ファイターになることはない。柔術もグラップリングも続けていく」と、試合前日に語っている。
そう、この日のホジャーのMMAデビュー戦は、総合格闘技ではなく、業界から勝利が望まれた者の異種格闘技戦――。そんな複雑な表現がしっくりくる試合だった。
写真撮影&レポート=高島学
Photos&Report=Manabu Takashima
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