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                           「UFC 
                            FIGHT NIGHT」 
                            2006年12月13日(土・現地時間)米国カリフォルニア州サンディエゴ ミラマー海兵隊航空基地第一格納庫  
                             
                             ↑軍服姿のマリーン兵士で埋まった会場。大きく開かれた格納庫の扉の向こうには、輸送機の姿が見える 
                          
                            2006年、大躍進したUFC。その一つの大きな柱であるスパイクTVライブショー=『アルティメット・ファイト・ナイト』の本年度、最終興行がサンディエゴで行われた。しかも、その開催場所がミラマー海兵隊航空基地。つまりは軍への慰問興行というわけだ。これは、WWEがここ数年で確立した年末の伝統行事(イラクやアフガニスタンへの米軍基地慰問興行)の露骨な模倣と思われるが、軍でのイベントを実現させてしまうこと自体が、今現在UFCが米国テレビ文化の中で大きな地位を築いたことの証しともいえる。 
                           中継の開始時には実況のマイク・ゴールドバーグが「本日は、我々の自由ために戦ってくれる兵士達に、我々が感謝を捧げる日なのです」と発言。その後も、観客席にいる軍服を来た兵士たちの姿、さらにはイラクの米軍基地にもこの大会がライブ中継されている模様が流される。この日は番組全体を通して、しきりに軍隊の映像が流されることとなった。 
                             
                              
                             
                          ▼第2試合 ウェルター級選手権試合 5分×3R 
                            ○ブロック・ローガン 
                            判定3-0 ※三者とも29-28 
                            ●中村K太郎(和術慧舟會) 
                            そんな一種独特の雰囲気をもつ大会に、日本から中村K太郎が出場した。これまでデビュー以来、総合で負け知らずのK太郎(15戦13勝2分)。グラップルの大会でも強さを見せつけてきたが、10月のGiグラップリング2006で杉江アマゾン大輔に敗れ、快進撃ムードも一時ストップしたが、この日のUFCデビュー戦で再び上昇気流に乗りたいところだ。 
                           そのK太郎だが、対戦相手のラルソンの荒いパンチと強引なテイクダウン狙いに序盤からペースをつかめない。ケージに押し込まれ、テイクダウンを許してしまう。それでも、ラルソンの手首を掴んでコントロールし、パンチやヒジは貰わずに、隙を見て三角絞めからオモプラッタを狙う。ラルソンはいち早く察知しエスケープに成功するが、その後はガードからの攻撃を嫌がり、トップキープに固執する展開に。 
                            2R、K太郎はパンチをヒットされ、またもテイクダウンを許す。ここから攻めないラルソン、レフェリーがブレイクし試合はスタンドへ。ようやくK太郎のパンチがヒットし始めると、スタミナが切れたのかラルソンの動きが一気に鈍くなる。 
                           最終ラウンド、明らかに打撃の攻防を嫌がるラルソンに対して、K太郎のヒザ蹴りがヒット。パンチで追い討ちをかけるK太郎だが、仕留めきれずまたもや組み付かれてケージに押し込まれてしまう。最後の最後に、もう一度テイクダウンを奪われると、試合終了までラルソンがトップをキープ。極めなければガードからの攻撃は評価されにくいUFC――K太郎は三者28−29の判定で敗れた。 
                           マリーンのソルジャーたちは勝ったラルソンにはブーイングを送り、意味が通じたのか通じなかったのかは不明だが、K太郎のKポーズに歓声を上げたが、敗北は敗北。デビュー以来の無敗記録が途切れてしまった。 
                           
                            
                             
                          ▼メインイベント ウェルター級 5分×3R 
                            ○ディエゴ・サンチェス 
                            KO 1R1分45秒 
                            ●ジョー・リグス 
                           メインは、K太郎と同じウェルター級のディエゴ・サンチェス×ジョー・リグス。王者GSP(ジョルジュ・サンピエール)、マット・ヒューズ、BJ・ペンからなる先頭グループに次ぐ、第二グループのトップ争いといえる試合だ。ファンの支持率だけ見れば、最もタイトルに近い位置にいるといっても過言でないサンチェス。対戦相手のジョー・リグスは、過去の実績も十分でタイトル挑戦に向けて最後の関門ともいえる存在だ。 
                           両者サウスポーで構え、一回り大きく見えるリグスが鋭いジャブ。サンチェスはテイクダウンを狙うが、リグスはこれを軽くいなしてみせる。今年の5月に行われたジョン・アレッシオ戦で、テイクダウンを奪えず苦しんでいたサンチェス――。また厳しい試合になるかと思われたその刹那、右、左のフェイントから一気に飛び込んだサンチェスの右フックと、リグスのカウンターの右フックが相打ち! 
                            一瞬早くヒットさせたかのように見えたリグスが、フラッシュダウン。この隙を逃さず疾風の如く襲いかかったサンチェスは、立ち上がりかけたリグスをヒザで吹っ飛ばし、さらに覆いかぶさってパウンドの追い討ちをかける。 
                           これらの波状攻撃で、リグスは完全に意識を失い、サンチェスの勝利がコールされた。 
                           試合後は神への感謝の言葉を述べたサンチェスだが、難敵相手にまさに神がかったKO劇といえるだろう。TUF1優勝の後、オクタゴンで5連勝。もはやタイトル挑戦資格を得るには十分すぎるほどの実績を積んでいる。が、現ウェルター級王者のGSPはすでに、盛り上がりに欠けたTUF4の覇者マット・セラとの(誰もがその必然性を疑う)防衛戦が2月に決まっている。さらには前王者のマット・ヒューズとの再戦が、4月7日にカナダで行われるという情報も流れてきた。 
                           タイトル挑戦について尋ねられたサンチェスは「僕は若いから気長に構えるよ。もっと経験を積んでいきたいね。」と、特に焦ってもいない様子だ。「イラクにいる兵士たち、そしてこの海軍の人々に感謝の気持ちを述べたい」とインタビューを締め、強引に(?)場内の歓声を引き出してみせエンターテイナーぶりを発揮したサンチェスがオクタゴンを下り、UFNは大団円を迎えた。 
                           
                            
                             
                          ▼第8試合ウェルター級 5分×3R 
                            ○ジョシュ・コスチェック 
                            判定3-0 ※三者とも30-27 
                            ●ジェフ・ジョスリン 
                           TUFシーズン1で、スター選手の地位を得たコスチェック。対戦相手は、カナダの黒帯柔術家でMMAマニアにとって待望のUFC初参戦となるジェフ・ジョスリンだ。 
                           軽いフットワークから鋭い右を振るうコスチェックは、そこから得意の両足タックルでテイクダウンを奪う。パウンドとヒジを落とすコスチェックを、ジョスリンは巧みなバタブライガードを駆使して何度も浮かせてみせる。が、柔術対策もバッチリというコスチェックは類い稀なるバランス感覚と、金網を利用して上をキープして優勢のまま1Rを終えた。 
                           その後2&3Rも、ジョスリンがスタンドで鋭いジャブやインローを当てるものの、コスチェックのタックルをどうしても切りきれずに下になってしまう展開が続いた。ジョスリンも2R終盤の三角絞めなどで見せ場は作ったものの、コスチェックが彼の体を金網に押し付けて打撃を入れる形で試合は終了。 
                           判定は3人のジャッジが揃って30−27でコスチェックを支持。全米大学選手権優勝のレスリング力をまざまざと見せつけ、やはりウェルター級タイトル戦線に名乗りを上げた。敗れたジョスリンも、前評判に違わぬ非凡さは随所に見せており、今後も継続参戦が期待される。 
                           
                            
                             
                          ▼第7試合ウェルター級 5分×3R 
                            ○カーロ・パリシャン 
                            判定3-0 
                            ●ドゥルー・フィケット 
                           フィケットとパリシャン、ウェルター級崖っぷち対戦となった実力者同士の対戦。グラップラーとして知られる両者だが、序盤は共にオーゾドックスに構えての打撃戦に。伸びのあるワンツーを繰り出すフィケットに対し、豪快に腕を振り回すパリシャンの右フックがヒット。その後もパリシャンは果敢に飛び込んでは左右のフックを当て、優勢にファースト・ラウンドを終える。 
                           2R、パンチでフィケットを金網際に追い詰めたパリシャンが、そのまま抱え上げてテイクダウン。ガードワークに定評のあるフィケットは、ラバーガードの一形態「ロンドン」の形でパリシャンの動きを止め、さらに一瞬の隙をついて下からのエルボーをヒットさせると、パリシャンの顔面から鮮血が流れ落ちる。パリシャンもお返しとばかりに豪快なパウンドとエルボーを落とし、今度はフィケットが流血に追いこまれた。 
                           その後もフィケットが、巧みなガードワークで仕掛けるものの、プレッシャーで勝るパリシャンがトップをキープし、何発も強烈な打撃をヒットさせる。それでも、ひるまずに動き続け立ち上がることに成功したフィケットは、逆に両足タックルでパリシャンをテイクダウン! エルボーを連続で落としてゆく。死力を尽くした両者のファイトに、場内は爆発せんばかりの声援が飛び交う。 
                           そして、再びスタンド中心の展開となった最終ラウンドに突入した。打ち合いでやや優位に立つパリシャンは、組みつこうとするフィケットを得意の柔道スローで投げ飛ばし、そのままスタンドの打撃戦を続ける。最後まで勝負を捨てないフィケットも、テイクダウンが困難と見るや引き込んでガードからの展開を仕掛けたが、パリシャンがトップをキープして試合終了のホーンを聞いた。 
                           判定は三者フルマークでパリシャンに。ランディ・クートゥアーとバス・ルッテンがハリウッドにオープンしたレジェンドジムへ移籍し、課題と言われていた打撃とスタミナの向上を見せたパリシャン。8月のサンチェス戦での敗北を乗り越え、ウェルター級タイトル戦線で一歩前進することに成功した。 
                           日本総合格闘技界期待の新鋭が敗れたあとに、オクタゴンで勝利を掴んだウェルター級の3選手たち。前述したようにサンチェスでさえ、この勝利でセカンド・グループを抜け出し、トップ集団に追いついたに過ぎない。さらにいえば、パリシャンは殿争いから脱したようなものだ。改めて見せ付けられた、UFCウェルター級戦線の層の厚さ。 
                           秋風が吹くようになった日本の総合格闘技界で、果たしてこの熱風吹き荒れるウェルター級戦線で生き残っていける選手は存在するのであろうか――。 
                           
                           <その他の試合> 
                          ▼第6試合 5分×3R 
                            ○マーカス・デービス 
                            判定3-0 
                            ●ショーニー・カーター 
                          ▼第5試合ライトヘビー級5分×3R 
                            ○デイヴィッド・ヒース 
                            判定2-1 
                            ●ヴィクトー・ヴァリマキ 
                          ▼第4試合ミドル級 5分×3R 
                            ○アラン・ベルチャー 
                            KO 3R2分45秒 
                            ●ジョルジ・サンチャゴ 
                          ▼第3試合ミドル 級5分×3R 
                            ○ルイジ・フィオラヴァンティ 
                            TKO 1R4分44秒 
                            ●デイブ・メネー 
                          ▼第1試合 ミドル級5分×3R 
                            ○ローガン・クラーク 
                            判定3-0 
                            ●スティーブ・ビルネス 
                          レポート=堀内勇 
                            report by Isamu Horiuchi 
                            写真=デイブ・コントレラス 
                            Photo by Dave Contreras 
                            協力=礒野元、前田桂 
                            Special thanx to Gen Isono and Kei Maeda 
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