ラスベガスに万馬券が飛び交った。大穴狙いだったギャンブラーは笑いが止まらなかっただろう。2月24日(土・現地時間)アメリカ・ネバダ州ラスベガスのトーマス&マックセンターで開催されたDSE主催『PRIDE.33“SECOND
COMING”』は大波乱が続出した。
波乱の幕開けは早くも第2試合で訪れた。昨年のウェルター級GPで奇跡の逆転優勝を果たした三崎和雄が、アメリカの古豪フランク・トリッグに判定で敗れたのだ。トリッグはレスリング仕込みのタックルで三崎からテイクダウンを奪い続け、常に上をキープして完封勝利。見事な復活劇を演じ、試合後にはTV中継の解説席に座るという余裕ぶり。
第3試合では中村和裕の代打で急遽出場の決まったジェームス・リーがトラビス・ビューを秒殺、第4試合では打倒シウバの急先鋒であるアントニオ・ホジェリオ・ノゲイラが“アフリカの暗殺者”ソクジュに僅か23秒でマットに沈められる波乱が起きた。
第5試合では桜井“マッハ”速人が鮮やかな右クロスカウンターでマック・ダンジグをKO、第6試合に登場したセルゲイ・ハリトーノフもマイク・ルソーを腕十字で降す順当勝利。第7試合のマウリシオ・ショーグンはアリスター・オーフレイムの打撃に苦戦するも、パウンド一発でKO勝利を収めた。
これで流れが変わったかに思えたが、セミファイナルに大波乱が待ち受けていた。PRIDEライト級チャンピオンの五味隆典が、ニック・ディアスに敗れたのだ。前半はタックルからのパウンドを決めて優勢に試合を進めた五味だったが、ディアスのパンチをもらうとノーガードでの打ち合いをやってしまいダメージを蓄積。2Rにタックルでテイクダウンを奪ったところで逆にフットチョークを極められ、無念のタップアウト負けとなった。
極めつけはメインイベント。“絶対王者”PRIDEミドル級チャンピオンのヴァンダレイ・シウバが、同ウェルター級チャンピオンのダン・ヘンダーソンの挑戦を受けたが、3Rにバックブローをもらって動きが鈍り、続く右ストレートで完全に動きが止まってその場で打ち合いに行ったところでヘンダーソンの左フックをもらい、マットに大の字となったのである。これで二階級制覇を達成したヘンダーソンは、母国アメリカのファンにヘビー級をも制覇することを宣言した。
DSE
「PRIDE.33“SECOND COMING”」
2007年2月24日(土・現地時間)アメリカ・ラスベガス トーマス&マックセンター
観衆=13,180人
<全試合結果>
▼第9試合 PRIDEミドル級タイトルマッチ 5分5R
○ダン・ヘンダーソン(アメリカ/チーム・クエスト/PRIDEウェルター級王者)
TKO 3R2分8秒 ※左フック
●ヴァンダレイ・シウバ(ブラジル/シュート・ボクセ・アカデミー/PRIDEミドル級王者)
※ヘンダーソンが第2代王座に就く。
ラスベガスで行われる、初のPRIDEタイトルマッチ。アメリカ国歌とブラジル国歌が流れ、シウバからベルトが返還されると会場の熱は一気にヒートアップした。
1R、左手で距離を測り、右フックで飛び込むヘンダーソン。しかしシウバが先にテイクダウンを奪い、ハーフガードで上になる。上半身を固めてパスを狙うシウバだったが、ヘンダーソンは足を入れてガードポジションに戻す。ブレイク後、ヘンダーソンはパンチのプレッシャーをかけて前に出ると、得意のクリンチアッパー。シウバは押し込まれながらも、首相撲にとらえて追撃を許さない。
タックルで押し込むヘンダソーンは離れ際に右フック! シウバはそれをディフェンスし、左右のフックを返す。シウバの右ローにヘンダーソンは右フックを合わせる。右フックで前に出るシウバ。しかしヘンダーソンはそこに左フックを合わせ、さらにショートアッパーを当てる。
ここでも手数で圧倒されていたシウバだったが、左フックを当ててヘンダソーンをぐらつかせる。対するヘンダーソンもコーナーに詰まりながら、回転の速いパンチで応戦する。
2R、じりじりと前に出て行くシウバ。ヘンダーソンは両足タックルでテイクダウンを狙っていく。立ち上がろうとするシウバに対し、ヘンダソーンはフロントチョークを仕掛け、シウバが頭を上げようとするとヒザ蹴り。再びタックルに入って、シウバからテイクダウンを奪う。
ヘンダーソンは、シウバの胸に頭をつけて鉄槌を落とす。シウバは顔の位置をずらしてディフェンスをするのだが、ヘンダーソンの細かいパンチをもらってしまい、右目尻をカットしてしまう。それでもシウバはヘンダーソンのパスガードを阻止し、一瞬の隙を突いてガードから腕十字を狙っていった。
3R、左フックから飛び込むヘンダーソン。シウバの右ローを受けながらも、右ストレートで飛び込んでいく。ヘンダーソンのタックルに対し、シウバは足を使って後方に返して立ち上がる。ヘンダーソンをロープに押し込むシウバは、離れ際に左右の連打を集める。
ブレイクによる再開後、シウバのローに右ストレートを合わせるヘンダーソン。ここから激しいパンチの打ち合いとなるが、先にパンチを当てたのはヘンダーソン! 奇襲のバックブローを当てると、右ストレートを叩き込み、シウバの足を止める。それでもパンチを返すシウバだったが、ヘンダーソンの左フックがシウバの顎を打ち抜く!
これでシウバが後方にバタリと倒れ込み、ヘンダーソンがKO勝利! アメリカのファンから大歓声を受けたヘンダーソンが、シウバの長期政権の牙城を崩した。
▼第8試合 ライト級ワンマッチ 5分3R
○ニック・ディアス(アメリカ/シーザーグレイシー柔術)
一本 2R1分46秒 ※フットチョーク
●五味隆典(日本/久我山ラスカルジム)
1R、ディアスのパンチにタックルで組み付く五味。ディアスは下からアームロックを狙ったが、五味のパウンドに断念する。徹底してパウンドを狙う五味はディアスを立たせない。ディアスも下からパンチを打ち返し、腕十字を仕掛けてくる。五味は上体を起き上がらせながらパウンド、やや膠着となりブレイク。
長いリーチからパンチを放つディアス、距離感が合わないのか五味はもらう場面が多い。フックを空振りしたところへパンチをもらう五味だが、右フック一発でディアスがダウン! すかさずパウンドで畳み込む五味だったが、ディアスが下から腕関節。両者立ち上がるが、ここから五味の動きが明らかにスローダウン。ロープを背負ってノーガードで無謀な打ち合いを挑む五味。細かいジャブをもらいすぎて足元はフラフラとするが、それでも五味は完全にノーガードでコイコイと挑発する。ディアスのパンチを何発ももらってグラつく五味! 五味も大振りのパンチを返すが、明らかに距離感が狂っている。それでもディアスは左目上をカットして流血。
2R、ディアスがパンチで前に出る! 五味は相変わらずノーガードでパンチを受けながら、フックを返していく。苦しい五味。ディアスの右目下に出来た大きな傷からの流血が酷くなり、ドクターチェック。試合再開、左右のパンチで前に出るディアスに打たれっぱなしの五味。単発で強打を放っていくが、拳は空を切るばかり。五味は両足タックルに行くが、テイクダウンしたところでディアスが電光石火のフットチョーク! なんと五味がタップ! ラスベガスで大番狂わせが起こった。
▼第7試合 ミドル級ワンマッチ 5分3R
○マウリシオ・ショーグン(ブラジル/シュート・ボクセ・アカデミー)
TKO 1R3分37秒 ※パウンド=右フック
●アリスター・オーフレイム(オランダ/ゴールデン・グローリー)
1R、ガードを固めつつパンチで前に出て行くショーグン。アリスターは距離を取って飛びヒザ蹴りを放つ。組み付いて投げを狙うショーグンだったが、アリスターはそれを突き放す。その後もアリスターはアグレッシブにパンチで前に出て行く。
対照的にショーグンは動きも固く強引。投げを失敗して亀になったショーグンは、引き込むように下からアームロックを狙うが極まらない。アームロックを嫌って立ち上がろうとするアリスターを、しがみつくようにテイクダウンしたショーグン。イノキ・アリ状態からパンチを落としながら、パスガードを狙う。
そして足をスイッチすると、アリスターの足の間から飛び込むように強烈な右フック! この一発でアリスターの意識は飛び、ショーグンがKO勝利! リベンジを目論むアリスターを返り討ちにした。
▼第6試合 ヘビー級ワンマッチ 5分3R
○セルゲイ・ハリトーノフ(ロシア/ロシアン・トップチーム)
一本 1R3分46秒 ※腕ひしぎ十字固め
●マイク・ルソー(アメリカ)
現役ロシア軍人VS現役アメリカの警察官、ゴング前からフェイス・トゥ・フェイスで激しい睨み合いを展開する。
1R、テイクダウンに行ったのはルソー、右フックもヒットさせる。パンチで打ち合うかと見せてすぐに組み付きに行き、テイクダウンを狙うがハリトーノフはなかなか倒れない。ジリジリと追い詰めていくハリトーノフだったが、ローキックをキャッチされてテイクダウンを奪われる。ルソーはすかさずサイドへ、さらにマウントを奪ってパウンド! ハリトーノフはバックを奪わせて反転し、上になるも『USA! USA!』のコールを受けてルソーが再び上に。声援を受けてルソーがパウンドを落とすが、ハリトーノフが下から腕十字! 持ち上げるルソーにハリトーノフがぶら下がる形となったところで、ルソーがタップ。勝利をアピールするハリトーノフに、タップをしたルソーがなぜか「何でだ?」とアピールするが、当然、受け入れられることはなかった。
▼第5試合 ライト級ワンマッチ 5分3R
○桜井“マッハ”速人(日本/マッハ道場)
TKO 2R4分1秒 ※右クロスカウンター
●マック・ダンジグ(アメリカ/レジェンドファイトチーム/チームエクストリーム)
マッハは『不死身のエレキマン』で入場。険しい表情でダンジグを睨みつけながら、リングへ上がった。1R、軽快にステップを踏むダンジグに、マッハは強烈な右ミドル。ダンジグをロープに詰めると、右フックを放つ。そしてこの右フックから一気にラッシュ!
ダンジグは必死にガードを固めてディフェンスする。首相撲からヒザ蹴りを突き刺すマッハ。ダンジグはバランスを崩して、グラウンドでガードポジションを取るが、マッハはスタンドを要求した。
再開後、マッハはダンジグをパンチのプレッシャーで下がらせて左ボディ。前に出てくるダンジグを一本背負いで投げ飛ばす。ダンジグの長い手足を生かしたガードワークにてこずったマッハだったが、立ち上がると再び豪快な投げでテイクダウン! 残り時間が少なかったものの、ストレートアームバーでキャッチを奪った。
2R、パンチで前に出てくるダンジグを外掛けでテイクダウンするマッハ。しかしダンジグもすぐに足を入れてガードに戻す。スタンドになると、ジャブを突いて距離を取るマッハ。ジャブを顔面とボディに打ち分け、左右のフックを当てる。
マッハの強烈な右ローを受けると、たまらずダンジグの体が流れる。そしてダンジグの右ストレートに、狙い済ましたカウンターの右フック! マイク・アルフォンソ戦の再現を見るような、豪快な一撃でマッハがダンジグをマットに沈めた。
▼第4試合 ミドル級ワンマッチ 5分3R
○ソクジュ(カメルーン/チームクエスト/アフリカ支部)
TKO 1R0分23秒 ※左フック
●アントニオ・ホジェリオ・ノゲイラ(ブラジル/ブラジリアン・トップチーム)
1R、サウスポーのホジェリオに右インローキックを飛ばすソクジュ。ホジェリオが入ってくると近距離から右ハイキックを放ち、ホジェリオの左フックをダッキングして潜り抜けて左フック! この一発でホジェリオは大の字に! “アフリカン・アサシン”ソクジュが衝撃の秒殺KOを飾った!
▼第3試合 ミドル級ワンマッチ 5分3R
○ジェームス・リー(アメリカ/マッシュ・アカデミー)
一本 1R0分39秒 ※フロントチョーク
●トラビス・ビュー(アメリカ)
1R開始直後、パンチで前に出てくるビューに、リーがショートの右ストレート! この一発でビューは崩れ落ちる。リーの鉄槌の連打を受けながらも、何とかタックルでテイクダウンしたビューだったが、そこにリーがフロントチョーク! 一気に首を絞り上げてタップを奪った。
▼第2試合 ウェルター級ワンマッチ 5分3R
○フランク・トリッグ(アメリカ/RAW Team)
判定3-0
●三崎和雄(日本/GRABAKA)
1R、前に出るサウスポーのトリッグに対して、ステップで左右に動く三崎。トリッグがタックル、コーナーへ追い込むも三崎が体勢を入れ替えてヒザ蹴り&足の甲踏み。押し込むトリッグを倒れながらフロントチョークに捕らえようとしたが、トリッグがテイクダウンに成功してサイドへパスする。パンチを入れながらバックへ回るトリッグ、三崎はトリッグの左腕を抱え込み、右手でのパンチもしっかりブロック。トリッグの腕が三崎の首に触れる度、場内からは歓声が沸き起こる。そのままの体勢で第1Rが終了した。リングサイドのハリソン・フォードも興味深く試合を見つめている。
2R、トリッグの周りで大きくサークルを描く三崎。しかし、ジャブに合わせてタックルに入ったトリッグがあっさりとテイクダウンを奪う。トリッグはサイドポジションでガッチリと抑え込み、三崎に何もさせない。トリッグはマウントへ移行、三崎はバックを奪わせて股の間からトリッグの足を掬い、脱出に成功する! 立ち上がった三崎は右ストレート、ローキック。トリッグのパンチは空を切る。三崎のペースになるかと思われたが、トリッグが胴タックルからテイクダウン。ガードポジションの三崎をしっかりと抑え付けながら単発のパウンドを落とす。やはり三崎が下になったままこのラウンドも終えた。
3R、トリッグがローキックからミドルキック、三崎は左フックを放つがトリッグのタックルに倒される。ドントムーブでリング中央へ。三崎が下からの三角絞めを狙ったが、トリッグは足を担ぎ上げてサイドへパス。トリッグはパンチ、ボディへのヒジとヒザを突き刺していく。トリッグがバックへ! しかし、三崎が前に落として立ち上がり、飛びヒザ蹴り! このヒザは不発に終わり、パンチも単発になる三崎をトリッグが両足タックルでまたもテイクダウン。そのままゴングまで抑え込み、トリッグは両腕を挙げて歓声に応えた。
ハリソン・フォードもスタンディングオベーションである。判定は3-0でトリッグ。完封ともいえる内容だった。PRIDEウェルター級GP覇者の三崎が、ネバダの砂漠に散った……。
▼第1試合 ライト級ワンマッチ 5分3R
○ヨアキム・ハンセン(ノルウェー/フロントライン・アカデミー)
一本 3R2分33秒 ※腕ひしぎ十字固め
●ジェイソン・アイルランド(アメリカ/TAP
OR SNAP)
1R、左右のフックで前に出て行くアイルランドは、ハンセンをロープに詰めてテイクダウンを奪うも、アイルランドはすぐに立ち上がる。スタンドになるとハンセンの前足に左右のローキックを集めるアイルランド。今度はハンセンが左ストレートで前に出て、四つ組の状態からテイクダウンを奪う。
ハンセンはイノキ・アリ状態からパンチを落としつつ、アイルランドの足を超えてパスガード。そこからマウントポジション、バックマウントへと移行する。ここからパウンドで攻めたいハンセンだったが、アイルランドはハンセンの体を前に振り落として立ち上がる。
ハンセンは左ストレート、そして首相撲からのヒザ蹴り。アイルランドの足を払ってテイクダウンを奪うと、バックについた状態で自分が前転するように足をフックする。派手な技に湧き上がる観客、これは柔術で見られるテクニックだ。しかしアイルランドはハンセンに足をフックさせずに立ち上がり、致命打は受けない。
2R、左ハイキックを放ったハンセン。アイルランドはそのまま組み付いてテイクダウンを奪うが立ちあがる。ハンセンは右アッパーから前に出て首相撲からのヒザ蹴りを連打! そしてロープに詰めるとアイルランドのガードの合間を狙ってパンチを打ち込む。そしてアイルランドからテイクダウンを奪い、バックポジションへ。
アイルランドは何とか立ち上がるものの、ハンセンに打撃に後退してしまう。ハーフガードからアームロックを仕掛けるアイルランド。ハンセンは腕を股の間に入れてディフェンスすると、アイルランドの上半身を固めながらパスガードし、バックポジションへ移行する。
そして残り20秒、腕十字を仕掛けるハンセン! アイルランドは腕をクラッチしてディフェンスするものの、ハンセンはそこに容赦なく鉄槌を落とす。
3R、両手を挙げて観客を煽る両者。ハンセンが左ストレートから前に出て首相撲からのヒザ蹴り。アイルランドは何とかテイクダウンを奪うものの、ハンセンは得意のバタフライガードでアイルランドをコントロールする。
そして一気に三角絞め!アイルランドの顔面にパンチを入れながら腕十字に移行する。肘が伸びたにも関わらず、耐えていたジェイソンだったが、ハンセンが腰を突き出すと、ジェイソンは声を上げてタップとなった。
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