全日本キックボクシング連盟主催
ALL JAPAN KICKBOXING 2007
「Kick Return/Kickboxer of the best 60 トーナメント〜開幕戦〜」
2007年8月25日(土)東京・後楽園ホール
開場17:00 開始18:00
観衆=2,090人(超満員札止め)
▼第8試合 「Kick Return」Kickboxer
of the best 60 トーナメント1回戦 Bブロック
○前田尚紀(全日本フェザー級2位/藤原)
TKO 5R2分40秒
●梶原龍児(WFCA世界ライト級王者/チームドラゴン)
格闘技史を塗り替える素晴らしい名勝負が誕生した。死闘、激闘、熱闘……どんな言葉を使っても表現することが出来ない、筆舌しがたい壮絶な闘いだった。これぞ「格闘技」。あらゆる試合を凌駕する、格闘技史上最高峰に位置する“ザ・ベストバウト”。
歓声が渦巻き、場内は無音状態となった。これは桜庭和志VSホイス・グレイシー第一戦と五味隆典VS川尻達也の時にも起きた現象である。「ワーッ!」という声にならない歓声が渦巻き、全ての音を掻き消してしまうのだ。
格闘技記者歴19年の私(熊久保)がこれまで見てきた何万試合の中でも、本当の“死闘”これぞまさに“格闘技”であり名勝負中の名勝負といえるのは吉鷹弘VS大江慎、新妻聡VSハンマー松井の2試合だったが、この2試合に匹敵するほどの闘いだったといえる。「こんな試合は見たことがない……!」隣にいた若い記者二人が叫んだ。客席から見ていた複数の知人からは「涙が止まらない」というメールが届いた。
この闘いを演じたのは、藤原敏男の愛弟子であり小林聡の魂を受け継いだ男・前田尚紀と、かつての全日本キックのスターである前田憲作率いる常勝軍団チームドラゴンの四天王の一人・梶原龍児。技術もスタミナもフィジカルも超え、まさに“折れない心の折り合い”であった。
後楽園ホールに足を運び、ライブでこの試合を見た格闘技ファンは最高のひと時を手に入れることが出来たと思う。何万語を費やしてもこの試合の全てを伝えきるのは、どんなに能力のある作家やルポライターでも無理だが、その断片でも伝えられるように試合を振り返ってみよう。
1R、距離を詰めていく前田が右ローを連打、ボディから左右の連打へ行くが、これは梶原がステップでかわす。梶原の伸びのあるワンツー、前田のローへ左右を返し、ブロックして下を向いてしまう前田へヒジ。前田は右ローを蹴り続けるが、梶原はガードを固める前田へヒジ。
思い切って打ち合いに行った梶原の右ストレートのカウンターで前田が腰を落としたが、ダウンにはならず。梶原が圧力をかけていき、珍しく前田が下がる! ボディを叩き、アッパーを突き上げる梶原。前田は右ロー、梶原が左右のボディ。梶原はコーナーへ戻るときに左足がややふらつく。
2R、突っ込んでいって右ローを放つ前田。しかし、パンチで打ち合いにもっていったところ梶原の左フックでダウンを喫する! それでも打ちにいく前田、梶原もパンチで追撃し、的確なワンツーを突き刺す。
前田はボディから右ストレートでどんどん前へ出る。するとローを蹴ろうとしたところで前田に押されて今度は梶原がダウン! スリップにしか見えなかったが、レフェリーはダウンを宣告した。
両手を広げて「ダウンじゃない」とアピールし、立ち上がった梶原はレバーを叩く。前田も左右のフックで応戦、梶原はジャブを出しながら前田をコーナーに詰めていく。すると前田も捨て身の打ち合い、打ち合いで梶原の右ストレートがヒット!
一気に詰める梶原だったが、今度は攻撃は最大の防御なりとばかりに攻め続ける前田の右がヒット! 下がる梶原、前田がロープに詰めて左右のフックで梶原を棒立ちにさせたところでゴング! 凄まじい大歓声に後楽園ホールがビリビリと揺れる! 場内は龍児コールと前田コールで真っ二つに分かれる。
3R、前田が左右のストレートで梶原をコーナーへ釘付けに。前田の右ロー、梶原は左右からボディを叩く、前田の左フックがヒット! 前田の左フックから右ロー、梶原も守りに入らずパンチを返す。
前に出る前田が右ロー、そして左右のフック。梶原も左右のフック、レバー、前田の左ストレート、さらにワンツーがヒット。梶原も左右のフック、前田の左右フックに梶原が棒立ちとなる! 前田も打ち返す梶原のフックでマウスピースを吐き出しそうになった。
両者ともいつ倒れてもおかしくないほどの強打の応酬。しかし、気持ちの強さでは格闘家の中でもトップクラスの二人は、全く守りに入ることなく攻撃を出し続ける。もうダメかと思われた瞬間、一方が逆襲。
逆襲、逆襲、また逆襲で足を止めて打ち合う両雄! ホールは地鳴りのような大歓声! もはや声や音が聞こえないほどの歓声が渦巻く。もはや興奮の坩堝と化した!
4R、前田のフックと梶原のフックが交互に炸裂、突っ込む前田に梶原の右ヒジ。やや梶原が冷静になったように見える。梶原のボディ、前田の右ストレート、前田がローで詰めていって左右の連打。足を止めてのフックの打ち合い。ボディを叩き、ジャブを付く梶原。
前田の骨も折れよとばかりの右ロー、左右のストレート、梶原のパンチで前田がマウスピースを吐き出す。梶原の左右のパンチ、右ヒジが当たりだす。コーナーへ詰めてヒジとフックを連打する梶原。前田はガス欠気味だ。
5R、飛び込んで行った前田がワンツースリーフォーで前へ出て右ストレート! 梶原も負けじと打ち合いに応じ、ヒジと右フック。梶原が右アッパー、右ヒジ。梶原の左右フック、前田のワンツー、そして右ハイキック!
梶原も左右を出し続ける。前田が左右のパンチで前に出る。前田が梶原をパンチでロープに釘付けにし、右ストレートでついに梶原がダウン! 前田が左ミドル連打、崩れ落ちる梶原! 梶原の心が折れた!
「ウォォォォーッ!」張り裂けんばかりの大歓声が沸き起こり、格闘技史上最高峰の壮絶死闘は幕を閉じた。いつものようにカメラマンにポーズをとることもなく、サッとリングを降りていく前田。梶原はしばらく大の字になったままだったが、セコンドに両肩を借りて立ち上がった。後楽園ホールは万雷の拍手に包まれた。
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