7月31日(土)東京・ディファ有明で開催される谷山ジム主催興行『Jawin presentsビッグバン・統一への道
其の弐』のスペシャルエキシビジョンマッチにて、HIROYA(フリー/2008K-1甲子園王者)と対戦する谷山俊樹(谷山)。
その谷山の素顔を、ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した布施鋼治氏が描いたショートノンフィションが、主催者を通して届けられた。
「化けた若者」
文◎布施鋼治
写真◎保高幸子
7月5日、東京・国立代々木競技場第一体育館で行なわれたK-1 63kg級ジャパンGP。巷では優勝を争った大和哲也と久保優太の存在がクローズアップされているが、まだ観客数もまばらだったオープニングファイトでもそれまでの評価を覆した選手がいた。
第一試合に出場した谷山俊樹である。
正道会館の麻原将平と対戦した俊樹は1Rこそポイントを奪われたが、2Rになると右ハイキックでダウンを奪って形勢を逆転。続く3Rもパンチの連打で麻原を追い込んで3−0の判定勝ちを収めた。
「ウォ〜ッ」
一度ラッシュを仕掛けると、相手が後退するまで攻撃の手を休めない。その力強い俊樹の突進には、観客席から何度もどよめきが起こったほどだ。以前の俊樹と比べたら、ほとんど別人だ。
振り返ってみれば、K-1 63kg級ジャパンGP査定試合として行なわれた5・2JCBホール大会でも俊樹は卜部弘嵩(兄)に競り勝っている。もっとも、K-1における俊樹の評価は決して高くなかった。その証拠に7月4日の計量時、俊樹はK-1関係者から「K-1なんだから、もっとガンガン行かないとダメ」とハッパをかけられている。
その一言で俊樹は「K-1ではリスクを背負ってでも行かないとダメなんだな」と腹を括った。7月下旬、神奈川県伊勢原市にある谷山ジム。夏の夕陽を浴びながら、俊樹は麻原戦を振り返り始めた。
「その前からガンガン行こうと思っていたけど、もっと行こうと決心したんですよ。それに麻原選手は(5月の)嶋田君との試合を見る限り、普通にやれば勝てるだろうと思いました。トーナメント本戦に出ている人は強い人ばかり。なのに、麻原選手にパンチで勝てなかったら、とてもじゃないけど大和選手とは打ち合えないと思ったんですよ」
俊樹は谷山ジムを仕切る谷山歳於会長の次男。現在は国士館大学経営学部に通う学生キックボクサーである。10歳上の姉は地元の中学校で教壇に立ち、8歳上の長男は一部上場企業に務めている。5歳の時に俊樹が自宅に隣接する道場で空手を始めたのは、兄弟たちが揃って空手衣を着て稽古に励んでいたからだ。
「始めたきっかけはまわりの環境ですね。兄ちゃんも姉ちゃんもやっているので、自動的にやり始めた感じです」
かといって、幼少の頃は勝負にこだわるタイプではなかった。空手家としてのデビューは小2くらいだったと記憶している。
「でも、試合は勝ったり負けたり。その後ちょっとブランクがあって、試合には小5〜6年あたりからまた出始めました。本格的にやろうという気持ちは全くなかったですね」
キックボクシングを始めたのは、地元の伊志田高校に入学してからのことだ。
「兄ちゃんも高校からキックをやっていたので。父からの強制は一切なかったですね。高校は城戸(康裕)さんと一緒です。というか、城戸さんとは中、高、大と全部一緒。自分が高1の時、城戸さんが母校に教育実習に来たんですよ。その前からの知り合いだったので、『なんで城戸さんが教室にいるんだろう?』と不思議に思いましたね(微笑)」
それから新空手の大会に出場するようになったが、試合になるとガチガチになった。
「正直、試合はイヤでしたね。緊張しいだったんですよ、ワンマッチでも超緊張していた。結局、初めの頃は全然力を出せなかったですね。1Rなのにバテて、ガムシャラに闘うだけだった。しかも、全然勝てなかった」
そんな俊樹に対して谷山会長が怒ったり、サジを投げることはなかった。息子の選手活動は「あくまで趣味」と捉えていたからだ。「だから将来絶対チャンピオンにならなければいけないといったプレッシャーはなかった。逆に(父親の)期待なんて全然なかったんじゃないですか。むしろ、本格的にやらなくていいくらいの気持ちだったと思います。理由? やっぱり心配だったんじゃないですかね。父親として、息子が殴られる姿は見たくなかったのかもしれない」
転機が訪れたのは国士館大学入学後、学生キックで闘い始めた時だった。
「(学生キックの)チャンピオン戦に出た時、『これで負けるようだったら、もう先はない。キックを辞めよう』と思いました。中途半端にプロになっても、どうせ上には行けないじゃないですか」
俊樹の賭けは吉と出た。俊樹はライト級で優勝。しかも、決勝はハイキックによる1RKO勝ちだった。城戸は「お前はプロになれ」と後輩の肩を叩いた。それだけ衝撃的なKO勝ちだったのだ。果たして、俊樹はその後MA日本キックでプロデビューを果たす。しかし、一難去ってまた一難。すぐに“スーパー・ルーキー誕生”というわけにはいかなかった。俊樹も全然ダメでしたねと言いながら首を横に振った。
「全然いい試合ができなかった。ダウンはとれないし、全部判定決着。4戦目まではホントにクソみたいな試合ばかりでしたよ。たぶん、身体もちゃんとできていなかったのでしょう。3分3ラウンド闘えるだけのスタミナも持ち合わせていなかった気がします」
なかなか結果を出せない俊樹を“親の七光”と色眼鏡で見る向きは少なくなかった。不遇の時代を俊樹が回想する。
「相手が必要以上に気合を入れてくるのがイヤでしたね。僕と対戦する選手は、みんな気合が入っていた。目を見たら、『コイツ、前回の試合の時と全然違うじゃねえか』ということもありました(苦笑)」
筆者もグリーンボーイ時代の俊樹の試合を何度か見ているが、「慎重に闘いすぎている」という印象を抱いた。その件について水を向けると、俊樹は大きく頷いた。
「自分が倒れることが怖かった。それまでに倒れたことがなかったので、倒れたらどうなってしまうんだろうと不安だった」
打ち合って勝つ。
KOで勝つ。
K-1やキックに出場する選手がよくいう台詞だ。しかし、誰もが有言実行できるわけではない。いや、むしろできない選手の方が多いのではないか。怖かったというのは偽ざる本音だろう。だったら、なぜ大化けすることができたのか。冒頭で述べたように、本当に関係者の一言だけで変わることができたのか。もう一度突っ込むと、俊樹はう〜んと黙考しながら、思い当たる理由をいくつか話し始めた。
「今回はパンチ重視の練習をしていましたね。それまでは、どちらかというと蹴りの練習が多かったと思うんですけどね。ノップ(ノッパデッソーン・チュワタナ。元ラジャダムナンスタジアム認定ウェルター級王者。日本語も堪能な谷山ジムのチーフトレーナー)もその方がいいとアドバイスしてくれました」
フィジカル面の充実も見逃せない。以前と比べると、肩幅が広くなり、背中の筋肉が発達していた。63kg級の身体になってきたということか。俊樹はいつもより懸垂をしていましたねと言いながら微笑んだ。
「週3回、練習が全部終わってから1日50回くらいやっていました。あとは体幹を鍛えたり、そう、酸素カプセルにも週3回入っていました。そうすることで筋肉もつきやすくなるらしい。週1回、ジムにも通っていました。一応(専門のトレーナーに)練習メニューを考えてもらい、自分でやる感じでしたね。おかげで、今回は減量がちょっときつかったですね(苦笑)」
K-1という大舞台の独特の雰囲気に慣れてきたことも大きい。
「たぶん初めての人は戸惑ってしまうでしょう。でも、さすがに慣れてきた。その慣れは大きい。ルールにも慣れてきたし」
でも、一番はアレですねと言いながら、俊樹はカイの愛称で知られるチョンデーン(谷山ジムトレーナー)のことを話し始めた。
「週2回、彼にボクシングを習っているんですよ。初めての頃はやばかった。頭が超痛くなった。カイのジャブはヤバい。というか、左フックもアッパーも全部ヤバかったんですけどね。初めのうちは立っているだけでも、ダッキングなどの動きが全くできなかった。でも、最近はそういう動きもちゃんとできるようになってきたし、カイのパンチも見えるようになってきた。彼のパンチに慣れたら、試合が楽。まだ、同じレベルのパンチを打てる日本人選手とはやっていませんからね」
いまや練習や試合が楽しくて仕方がない。ジャストというべきタイミングで、K-1に自分が活躍できる新たなカテゴリーができたからだ。俊樹は自分はホントに運がいいと相好を崩した。
「自分にとって、63kgという設定体重はベスト。K-1 63kg級は自分のためにできたクラスなんじゃないかと思ったくらいです(微笑)。ありがとう、HIROYA君といいたい」
5月31日、エキシビションマッチながら俊樹はそのHIROYAと直接対戦することになった。K-1甲子園が生んだ未来のエース候補とは知らぬ仲ではない。
「去年の8月、ウチのジムに城戸さんの絡みでHIROYA君が来たんですよ。それから自分と卜部(兄)君の試合が決まるや、彼から『スパーをするなら手伝います』という電話をもらった。彼の家からウチまで車で30〜40分程度。それから2〜3回、一緒にスパーをしていますよ。いまでもたまに連絡を取り合うけど、今回のエキシビションはガチでやるつもりです」
親の七光で何が悪い。強くなれば、全てが正しい。
谷山ジム
「ビッグバン 統一への道 其の弐」
2010年7月31日(土)東京・ディファ有明
開場15:30 開始16:00
<全対戦カード>
▼ダブルメインイベント(第10試合)70kg契約3分3R K-1ルール
城戸康裕(谷山/2008年K-1 WORLD MAX日本王者)
VS
キム・ウジュン(韓国/大韓格闘技協会 ジュニアミドル級王者)
▼ダブルメインイベント(第9試合)59kg契約 3分5Rヒジあり
駿太(谷山/WMAF世界フェザー級王者)
VS
蘇我英樹(市原/新日本キックボクシング協会/日本フェザー級王者)
▼セミファイナル(第8試合)63kg契約3分3R K-1ルール
チョンディーン・チュワタナ(タイ/元ラジャダムナンスタジアム認定フェザー級5位)
VS
西川康平(ティダマンディ八王子/J-NETWORKスーパーライト級7位)
▼スペシャルマッチ(第7試合)エキシビション2分2R
HIROYA(フリー/2008K-1甲子園王者)
VS
谷山俊樹(谷山)
▼第6試合 ウェルター級3分3R
光浩(谷山)
VS
コタロー(MASC)
▼第5試合 ヘビー級3分3R K-1ルール
戦闘竜(チームファイティングドラゴン)
VS
高荻ツトム(チームドラゴン)
▼第4試合 70kg契約3分3R K-1ルール
濱崎一輝(シルバーアックス)
VS
アスガル・ギベチ(イラン大誠塾/イランキックミドル級王者)
▼第3試合 ミドル級3分3R
貴之ウィラサクレック(ウィラサクレック・フェアテックス/J-NETWORKミドル級2位)
VS
山床修一(拳心会/硬式空手道重量級優勝)
▼第2試合 スーパーフェザー級3分3R
KING(土浦/MA日本同級2位)
VS
片岡広樹(ダイケン/元MA日本同級9位)
▼第1試合 バンタム級3分3R
宮本啓介(橋本道場)
VS
菊池洋次朗(ウィラサクレック・フェアテックス)
▼オープニングファイト第2試合 エキシビションマッチ1分2R
町屋 迅(谷山/小学4年生)
VS
染谷響生(治政館/小学3年生)
▼オープニングファイト第1試合 エキシビションマッチ1分2R
町屋寧々(谷山/小学2年生)
VS
望月愛華(治政館/小学2年生)
<チケット料金>
VIP席20,000円 SRS席12,000円
RS席10,000円 A席7,000円、B席5,000円
<チケット販売所>
チケットぴあ
出場各ジム
<お問い合わせ>
谷山ジム=TEL:0463−93−9664
MA日本キックボクシング連盟
「BREAK-5〜MA日本ライト級王座決定戦準決勝〜」
2010年8月15日(日)東京・ディファ有明
開場16:00 開始16:30
<全対戦カード>
▼ダブルメインイベント2(第12試合) MA日本ライト級王座決定戦準決勝 3分5R
佐藤 琉(JMC横浜/同級2位)
VS
梶田義人(武勇会/同級5位)
▼ダブルメインイベント1(第11試合) MA日本ライト級王座決定戦準決勝 3分5R
田中秀和(橋本道場/同級3位)
VS
勇苡馳(Studio-K/同級4位)
▼セミファイナル(第10試合) 日泰国際戦 スーパーライト級 3分5R
深沢大輔(ダイケン/MA日本スーパーライト級3位)
VS
マキ・ランサヤーム(タイ/元ルンピニースタジアムライト級1位)
▼第9試合 MA日本スーパーフェザー級ランキング戦 3分3R延長1R
町田 光(橋本道場/同級4位)
VS
藤澤大樹(HOSOKAWA/同級7位)
▼第8試合 ジム対抗戦 3分3R延長1R
伊東拓馬(橋本道場/MA日本バンタム級5位)
VS
大原清和(レグルス池袋/J-NETWORKバンタム級2位)
▼第7試合 MA日本スーパーライト級ランキング戦 3分3R
マーツ(PCK/同級8位)
VS
内山周平(Kインター柏/MA日本ライト級9位)
▼第6試合 MA日本ミドル級ランキングチャレンジマッチ 3分3R
阿部雅俊(PCK/同級8位)
VS
篠原友志(Kインター柏)
▼第5試合 ジム対抗戦 60kg契約 3分3R
阿修羅(PCK)
VS
須藤稔也(阿門會)
▼第4試合 ジム対抗戦 ライト級 3分3R
森實恭平(士魂村上塾)
VS
加藤丈博(WSR)
▼第3試合 ジム対抗戦 ウェルター級 3分3R
TAKUTO(八木橋道場)
VS
小森谷貴雄(WSR)
▼第2試合 ジム対抗戦 フェザー級 3分3R
鋭司(HIMI-GYM)
VS
柳田直哉(Kインター柏)
▼第1試合 フェザー級新人王トーナメント準決勝 2分3R
キューピー晋大(HOSOKAWA)
VS
野口直人(飯島)
▼オープニングファイト第4試合 ジム対抗戦 女子フライ級 2分3R
神戸麻美(JMC横浜)
VS
トモコSP(WSR)
▼オープニングファイト第3試合 ジム対抗戦 60kg契約 2分3R
小林 慶(KING BEE)
VS
太田 聡(大誠塾)
▼オープニングファイト第2試合 ジム対抗戦 フライ級 2分3R
リトル由(谷山)
VS
透馬(WS群馬)
▼オープニングファイト第1試合 ジム対抗戦 75kg契約 2分3R
馬場 仁(JMC横浜)
VS
ゆとり・キック(阿門會)
MA日本キックボクシング連盟
「BREAK-6」
2010年9月26日(日)東京・後楽園ホール
開場開始未定
<決定対戦カード>
▼WBCムエタイルール日本スーパーウェルター級王座決定戦 3分5R
武田一也(JMC横浜/MA日本ミドル級1位)
VS
山内裕太郎(P.O.D./team pitbull/元全日本スーパーウェルター級王者)
●MA日本キックボクシング連盟2010年興行スケジュール
8月15日(日)東京・ディファ有明
9月26日(日)東京・後楽園ホール
10月10日(日)東京・ディファ有明
11月27日(土)東京・後楽園ホール
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