↑思いもしないボーンヘッド。優勝したゴウが驚きの表情を浮かべてしまっている
南カリフォルニア・スタイルとADCC、
ノーギ・グラップリングとサブミッションファイティングは別物なのか
「ADCC
2007 North American Trial」
2006年10月28日(土)米国ニュージャージー州ウェイン
ウィリアム・パターソン大学RECセンター
ミスが許されない、ADCCルールにあって、クーパーの兄弟子に当たるジェフ・グローバーは、いつも通り自由奔放なサザンカリフォルニア・スタイルで、危なげなく決勝に駒を進めていた。比較的、アグレッシブな動きを信条とする参加選手が多い66kg級とはいえ、やはりグローバーの動きは群を抜いていた。
2回戦からの登場となり、来日経験もあるダレン・ウエノヤマを三角絞めで破ると、準決勝のシェーン・ライス戦は、リバーサル→アナコンダチョーク→バック→ツイスター→バックに戻ってチョークと、流れるような展開で圧倒。得点こそ2-0だったが、力の差は歴然としていた。
→ダレン・ウエノヤマを三角絞めで下す
真正面からバカ正直に技を仕掛けていたクーパーに対し、グローバーはあくまでも相手の動きに合わせ、相手の体重移動を呼んで技を仕掛ける。そこがサザンカリフォルニア・スタイルの実践者である両者の差だろうか。洞察力も、グローバーが一枚も二枚も上のように感じられた。
一見、66kg級でもひ弱な印象を受けるグローバーは、力を抜いた柔術の真髄に近い動きを元に、派手なアクションを見せることができる北米代表に相応しい実力者といえる。
が、そのグローバーに思わぬ落し穴が待っていた。決勝戦の相手は、コブラカイのシン・ゴウ。準決勝でティーンエイジャー黒帯リッキー・ライデル(ペドロ・サワー)を、引き込みによるマイナスポイントで破っての決勝進出だ。
→流れるような技の連係。流れるか、流してつくるか、グローバーとクーパーの違いだ
パラゴン柔術から2年間、コブラカイにコーチとして招聘されたグローバーにとって、ゴウは教え子に当たる。力の差も十分に感じ取っていたのだろう、決勝戦は試合開始時点から減点のみ加算されるというのに、グローバーは何度も引き込み、ポイント加算時点ですでにマイナス4P(その後、もう一度引き込み計マイナス5P)となっていた。それでも余裕綽々で、リバーサルを決めて2Pを奪取したグローバーだが、また大きなミスを犯した。柔術などのポイント換算では、獲得したポイントが同点の場合だけマイナスPが優劣の判断となるが、ADCCでは得点とペナルティを集計した結果が持ち点となる。
つまり、グローバーはリバーサルで獲得した2Pから5Pを差し引かれ、結果マイナス3P−0Pで敗れたことになる。
レフェリーから高々と右腕が掲げられると信じて疑わなかったグローバーは、唖然とした表情で得点版を眺め、勝者ゴウも「勝ったのはジェフだ」と困惑気味にレフェリーに話しかける。
だが、この非は100%グローバーにあるだろう。ADCCで世界を究めたいのなら、ルールを熟知していてしかり。
MVPに選ばれ、世界大会への推薦も受けられそうなグローバー。彼の周囲にも安堵感が漂っていたが、世界大会の相手は北米予選とはレベルが違うことを今一度、心と頭に刻み、世界で彼らのサザンカリフォルニア・スタイルがどこまで通じるか、全力を尽くして闘ってほしい。
<その他の階級の優勝者>
▼88kg未満級
優勝 クリス・モリアティ(アリアンシ/米国)
NYにジムを開いたマルセリーニョ・ガウッシアをセコンドにつけたクリス・モリアティが、本命ラファエル・ロバトJrを破った米国の足関十段リック・マコーリーから、終了間際にバックマウントを奪い勝利を掴んだ。
→左がモリアティ、右がマコーリー
▼99s未満級
優勝 ミーシャ・カクノフ(コブラカイ/米国)
ロシア生まれのミーシャ(右)、全くのノーマークだったが、するどいテイクダウンに勝ち上がり、世界大会への切符を獲得。
▼99kg以上級
優勝 マリオ・リナルディ(ATT/米国)
巨漢のマリオ・リナルディが、米国柔術界の実力者ロイ・ネルソンを下して、世界大会へ。テイクダンでなく、一本勝ちができる重量級ネルソンも世界大会で見てみたい選手だ。
▼女子55kg未満級
優勝 フェリシア・オウ(ジェンジャック・マチャド/米国)
緒戦で最大の壁になるとみられたリサ・ワードからヒールで一本勝ちを奪うと、準決勝、決勝とも危なげない勝利でフェリシア・オウが優勝。これが彼女の本当の力だとすると、日本で真価を発揮できないのか歯がゆい。そう思わせるほど、強かった。
▼女子60kg未満級
優勝 カッサンドラ・バラソ(ルイス・クラウジオ・コンバットチーム/米国)
引き込んでから三角、さらにヒップスローでマウントと、磐石のスタイルを誇るバラソ(右)。あまりにも普通のテクニックといえば、それまでなのだが――。
▼女子67kg未満級
優勝 ケリー・ポール(ハウフ・グレイシー/米国)
パワー溢れるポール(下)が、他の追随を寄付けない強さを発揮し優勝。会場からは「○ト○じゃないの?」という声が多く聞かれた。
↑左がシュルツ、右が準優勝のオルガ
▼女子67kg以上級
優勝 セリタ・シュルツ(パフォーマンス/米国)
スタンドの攻防、動きの少ない寝技という展開が多かった女子の最重量級を制したシュルツは、オリンピック出場経験のある柔道家だそうだ。正直、このクラスを設けるなら、50kg以下級を作ってほしかった。
写真撮影&レポート=高島学
Photos&Report=Manabu Takashima
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