▲(左から)和田良覚レフェリー、渡辺一久、安廣一哉、新田明臣、小比類巻太信、緒形健一、魔裟斗、山本“KID”徳郁、佐藤ルミナ、大野崇、武田幸三、HAYATO、平野仁
5月7日(土)東京・六本木ヒルズアリーナにて、『K-1 WORLD MAX』2003&2008年世界王者の魔裟斗と『HERO’S』2005年ミドル級世界王者の山本“KID”徳郁がタッグを組み、『東日本大震災復興支援チャリティーファイト』を開催した。
このイベントは魔裟斗とKIDが被災者及び関係者を支援したい、との気持ちで意気投合し、話し合った末に実現した義援金募金のためのチャリティーイベント。ファイター、会場、運営会社など全てがボランティア協力するという、まさに格闘技界が一丸となって被災者を支援するイベントだ。
六本木ヒルズアリーナ特設リングに立った魔裟斗は「被災地の1日も早い復興を願って一生懸命に戦います」と宣誓。怪我のためエキシビションマッチ出場を断念したKIDは「こんなに集まってくれて感謝します。今回、怪我をしちゃってリングに立てなくなってしまい悔しいです。この後の募金でみんなと1人でも多く触れ合えたらいいなと思います」と挨拶した。
第1試合は、急遽4日前にKIDから出場オファーを受けて参加することになった“修斗のカリスマ”佐藤ルミナ(roots)と、KIDから対戦者として指名を受けていた平野仁(平野道場)による総合格闘技ルールのエキシビションマッチ。平野は岩手県上閉伊郡大槌町にある平野道場の代表で、岩手県釜石市在住で被災に遭ってしまい、今回は被災者代表としての出場。
声援を受けてリングに上がった平野だが、ルミナはあえて全力で迎え撃った。1R2分45秒に三角絞めで一本を奪うと、2R1分14秒にも三角絞めで一本を奪う。ルミナのヒールホールドを耐えてアキレス腱固めに切り替えした平野の顔面にパウンドを叩き込み、ほぼ一方的にルミナが攻めて3分2Rが終わった。
ルミナは「相手を引き受けてくれた平野君は練習場所もない中でやってくれて、地元の仲間のために少しでも勇気と元気を与えるために出てくれました。彼の勇気に感謝します。KIDから4日前にやってくれと言われて、平野君は何度か自分のジムにも出稽古に来てくれたことがあるのでやらせてもらいました。やってよかったです。皆さんが何か感じてくれたら明日から復興のために頑張ってください」と熱いメッセージ。
平野は「ルミナさん、そこそこ強かったです。自分は実家がなくなってしまい、道場もなくなっちゃって、ジム生もまだ見つからないやつがいたり親や兄弟がいなくなったり……勝手に被災地代表として出させていただいて感謝します。
皆さんに伝えたいのは、俺も自分の家がなくなって仲間や弟子たちが死んじゃうなんて、地震と津波が来るまで1回も考えたことがなかったです。好きな人がいる人は今すぐその人に好きと言ってください。俺は仲間に言えなかったことがいっぱいあります。今日を100%大事に生きてください。家族や仲間たちを大切にしてください」と、何度も声を詰まらせながら涙ながらに訴えた。
リングに上がったKIDも、平野の訴えに涙を堪えることが出来ず、目頭をおさえて号泣した。
第2試合は「もう2度とリングに上がることはないと思っていた」魔裟斗が、被災者のために2009年12月31日の引退試合以来、初めてグローブを着けてリング上へ。4月25日の記者会見で「ずっとやってみたいと思っていました」と自ら指名した緒形健一(シーザー)と2分2Rのエキシビションマッチに挑んだ。
緒形はシュートボクシング(以下SB)の初代日本スーパーウェルター級王者であり、アンディ・サワーからダウンを奪って日本人初勝利を奪い、SBワールドトーナメント『S-cup2006』を制覇した。昨年11月23日に引退式を行い、現在は後進の指導にあたっている。
両者は蹴り合いを展開し、魔裟斗の重いローが快音を発するたびに、場内からはどよめきが沸き起こる。ロー、ミドルキックの応酬となり、魔裟斗はハイキックも繰り出す。解説を務めた小比類巻太信は「蹴りは本気でやっていますね。2人ともキレがいいです」と評した。
魔裟斗との夢の対決を終えた緒形は、「被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。1日も早い復興をお祈り申し上げます。魔裟斗からオファーをもらって2週間、久しぶりに水や食べ物を減量のため節制し、1日1日のありがたさをこの機会に思い出させていただきました。被災地にも1回行きましたが、言葉にならない状況でした。こういう時こそ力を合わせていきたいと思います」と語った。
続いて、かつて魔裟斗とK-1のリングで激闘を繰り広げた小比類巻と武田幸三がリングに上がり、次のように語った。
小比類巻「試合で戦ったことのある、時代を作った格闘家の男たちと同じ控え室で初めてたくさん話をしました。ずっとしのぎを削ってきた仲間たちと仲良く話をして、自分たちは被災者の方々のために、千葉、静岡、長野……の方々のために、僕ら格闘家として応援していきたい。今が日本人として頑張る時だと思います。今後も被災地に行き、活動していきたいと思います」
武田「3度ほど被災地に行かせていただいていますが、惨状で何と言っていいのか分かりません。KID君や魔裟斗君みたいに格闘技を代表する選手たちが音頭をとってくれて集まることが出来ました。少しでもこの想いと義援金が届けられたらいいと思います」
この後、武田は「魔裟斗君にもっと激しく戦ってもらいたい」とハッパをかけ、「被災地の復興を祈願して」のローキックによるバット折りを披露。バット3本を蹴り折って、場内を大きくどよめかせた。
3試合目は魔裟斗とK-1MAXに出場した正道会館の空手家・安廣一哉による2分2Rのエキシビションマッチ。魔裟斗が2試合行うことがアナウンスされると、場内からは歓声が沸き起こった。
緒形とのエキシビションマッチではTシャツを着ていた魔裟斗は上半身裸となり、臨戦態勢。パンチと後ろ蹴りでガンガンと攻める安廣に対し、魔裟斗も触発されたか鋭い右ストレートを中心にガチンコでの打ち合いを展開。お互いに打ちつ打たれつの迫力あるスパーリングを展開し、場内は大いに沸いた。
安廣は「僕も被災地に水を配りに行ったんですけれど、そこで気付いたことがあって。自分の家族や仲間たちを幸せにして、その余った幸せを被災地に届ければいいと気付きました。
魔裟斗選手に声をかけてもらって感謝しています。皆さんも自分に出来る中で幸せな気持ちを少しでも被災地に届ければいいと思います」とマイクで語った。
続いて魔裟斗がマイクを持ったところで、K-1で活躍する元プロボクサーの渡辺一久が「最後は俺とやれ!」とリングに乱入。魔裟斗のローキックを5発耐えたら試合をやれと要求した。
魔裟斗は「キミ、相変わらず空気が読めないね。何しに来たの?」とかわそうとしたが、しつこい渡辺のアピールに根負けしてローキックをやることに。2発目でかなり痛そうな渡辺は片足立ちになりながらも耐え続けたが、最後の5発目は魔裟斗がレガース(スネ着ける防具)を外して生スネで蹴り込んだため、悶絶してマットに沈んだ。
この渡辺の文字通り身体を張ったパフォーマンスに場内は大盛り上がり。渡辺はマイクを持つと「何かを感じ取った人は、募金をお願いします!」と足を抱えながら訴えた。
最後にマイクを持った魔裟斗は、「僕がこのイベントをやろうと思ったのは、テレビで被災地の映像を見て、どんどん被害が大きくなる中で自分にもやれることがあるんじゃないか、やらねばと思いました。今の僕があるのは格闘技があったから。格闘技に助けられたと思っています。だから格闘技に感謝を込めて格闘技でみんなの力になれればと思いました」と、イベントの趣旨を説明し、集まった約2,000人のファンに感謝を述べた。
イベント終了後はK-1ファイターが多数参加する募金&握手会が行われ、予定時間の2時間を30分以上もオーバーするほどのファンが募金箱の前に列を作った。
終了後、魔裟斗は「これだけの人が集まってくれてやってよかったです。本当は不安がありました。(エキシビションマッチは)自分の思うようには行けなかったですね。昔だったらもっといろんなパンチが出たのにと思いながらやっていました。現役復帰? 100%ないです(笑)。今回は特別なので、もうリングに上がることはないです」とコメント。
KIDは「みんな集まってくれてよかった。出場できなくて悔しいです。次はしっかりとリングに上がります。(リング上で泣いたことは)すぐに泣いちゃうんですよ。泣き虫なので(笑)。今後は俺が魔裟斗君の代わりにリングに上がります。怪我はすぐに治しちゃいます」と語った。
なお、この日、集まった義援金の金額は公式ブログにて後日発表。全額、日本赤十字社を通じて被災地に送られる。
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